2020 Fiscal Year Annual Research Report
水のラマンイメージングによる細胞内夾雑環境の定量評価とその応用
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
20H04689
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
梶本 真司 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (80463769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞内の水 / ラマンイメージング / 夾雑環境 / 液液相分離 / 細胞周期 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究では,細胞周期の進行に伴う細胞内夾雑環境の変化をラマンスペクトルイメージから追跡した。観測には多共焦点ラマン顕微鏡を用い,ダブルチミジンブロック法やミトティックシェイクオフ法を用いて同調処理を施したHeLa細胞について,ラマンスペクトルイメージを取得した。得られたイメージから,細胞質と核のラマンスペクトルを抽出し,主に水分子に由来するO―H伸縮振動バンドと生体分子のC―H結合に由来するC―H伸縮振動バンドの強度比からそれぞれの領域における夾雑度合いを定量的に追跡した。その結果,核膜が消滅する分裂期を除くと,細胞周期によらず,核は細胞質に比べて疎であり,細胞周期の進行に伴って夾雑度合いが変化することがわかった。M期の最終盤である細胞質分裂期に比べて,G1期,S期は10%近く疎であった。一方,細胞質では細胞周期によらず,夾雑度合いはほとんど変化しないことがわかった。それぞれの周期におけるラマンスペクトルの比較から,核におけるM期の夾雑度合いの増加は核膜の消失に伴う細胞質内の生体分子の核への流入に起因すると考えられる。これらの結果から,細胞周期の進行に伴う細胞内夾雑環境の変化の追跡に成功した。 また,タンパク質溶液の液液相分離に伴って形成する液滴内のタンパク質濃度について,液滴内外のラマンスペクトルを比較することによって定量した。特に,ポリエチレングリコールやデキストランなどのクラウディング剤の濃度によって液滴内のタンパク質濃度がどのように変化するかを調べることによって夾雑環境が液液相分離に与える影響について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では細胞内の水や生体分子のラマンイメージングを用いて細胞内の分子クラウディング環境の定量評価を行う。さらに,その評価方法を応用して,緩衝溶液中,および細胞内での液液相分離によって形成する液滴の定量評価を行い,液液相分離過程に対する夾雑環境の影響と疾病発祥機構の考察を行う。2020年度の研究では,細胞周期に伴う細胞内夾雑環境の変化をラマンイメージングによって追跡することに成功し,また溶液中に生成した液滴についても,緩衝溶液中のクラウディング剤濃度の影響を定量的に評価することができた。これらのことから,順調に進んでいると言える。今後は,細胞の分化など,異なる細胞内生理現象に伴う動的な変化を追跡するとともに,ストレス応答などによって細胞内に生成する液滴の評価を行い,溶液中の結果と比較検討することによって,細胞内生理現象における細胞内夾雑環境の役割を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては,分化誘導や外部ストレスに伴う細胞内夾雑環境の変化を多共焦点ラマン顕微鏡を用いたラマンイメージングから追跡・可視化する。また,各オルガネラ間における夾雑環境の違いなどより詳細な空間分布を調べるために,共焦点ラマン顕微鏡や広視野ラマン顕微鏡を用いた観測も行う。特に,ストレス応答によって細胞内に生成するタンパク質高濃度液滴について,その濃度を定量するとともに,緩衝溶液中の液滴内外のラマンスペクトルと比較検討することによって,細胞内液液相分離過程における夾雑環境の影響について定量的に評価する。
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