2020 Fiscal Year Annual Research Report
新規ケモジェネティクス法による脳内記憶・学習回路の制御と理解
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
20H04716
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
掛川 渉 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70383718)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シナプス / 化学遺伝学 / GPCR / リガンド作動性受容体 / 可塑性 / 記憶・学習 / 小脳 / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちの脳内に存在する無数の神経細胞は、情報伝達の場である「シナプス」を介して互いに結合し、記憶・学習に必須な神経回路ネットワークを構築している。そのため、シナプスの形成過程や動作原理を詳細に解析することは、記憶・学習の実体を分子レベルで理解する上できわめて重要な課題である。これまで、記憶・学習に関わる神経回路ネットワークの同定には、チャネルロドプシン、ハロロドプシンをはじめとする光遺伝学的手法(オプトジェネティクス法)やDREADD(designer receptors exclusively activated by designer drugs)などの化学遺伝学的手法(ケモジェネティクス法)といった革新的技術が威力を発揮してきたが、それらの多くが神経細胞の興奮性を操作する、いわゆる、1細胞レベルでの制御に留まっていた。現在、記憶・学習を担う神経回路ネットワークを理解する上で、シナプスレベルでの操作が求められているが、多くの細胞やタンパク質がひしめく超夾雑環境にある脳内において、特定の神経回路内のシナプス選択的にアプローチする技術は、今も尚、開発途上にある。そこで本研究では、ケモジェネティクス法をはじめとする、シナプスの形成・機能過程を人為的に操作しうる新しい技術の開発に着手し、個体行動レベルへの制御法を確立することで、記憶・学習の分子的理解をめざす。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私たちはこれまで、シナプスの形成および機能の人為的制御をめざした光・化学遺伝学的技術の開発を進めてきた。とりわけ、記憶・学習の分子基盤とされるシナプス可塑性 (シナプス伝達効率の可逆的変化) を光で制御しうる新しい光遺伝学技術を駆使し、シナプス可塑性が個体行動に直接的に関与していることを世界に先駆けて明らかにした (未発表データ;Kakegawa et al., Neuron '18)。また私たちは、合成化合物によって選択的に活性化されるリガンド作動性受容体を設計し、この系が急性脳スライスで機能することを見出した (未発表データ)。 さらに私たちは最近、独自に同定した内在性シナプス形成分子Cbln1の構造 (Elegheert, Kakegawa et al., Science '16) をもとに設計した人工シナプスコネクター (CPTX) を作出することに成功した。驚くべきことに、CPTXをシナプス形成・機能不全を呈する各種疾患モデルマウスに局所投与すると、その機能が著しく改善された (Suzuki et al., Science '20)。以上の実験結果は、次年度以降の研究計画を展開する上で、重要な情報として評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
CPTX投与による疾患モデルマウスの症状改善は、成熟脳においてもシナプスの形態および機能がダイナミックに変化し、また、そのようなシナプスに対して人為的に介入しうることを示唆する、きわめて有益な所見である。今後、この実験結果を踏まえ、現在、開発途中である新規ケモジェネティクス法やオプトジェネティクス法を駆使したシナプス制御技術を細胞・組織レベルで確立し、記憶・学習をはじめとする個体行動レベルの制御へと展開していく予定でいる。
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