2020 Fiscal Year Annual Research Report
Mitigating the effects of galaxy peculiar velocities and gravitational lensing using hydrodynamic simulations
Publicly Offered Research
Project Area | Gravitational wave physics and astronomy: Genesis |
Project/Area Number |
20H04723
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
高橋 龍一 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (60413960)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 宇宙の大規模構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は最新の銀河形成シミュレーション(IllustrisTNG, Nelson+ 2019)を用いて、銀河の空間分布から銀河の特異速度の不定性を除去する手法を開発している。TNGは暗黒物質とバリオン(星、ガス、ブラックホール)の重力進化を同時に追っており、星や銀河形成、活動銀河核によるフィードバックも考慮されている。すでに必要な全シミュレーションデータをダウンロードしており、その粒子データ(位置と質量)と銀河カタログ(位置、速度等)を用いて上記の問題に取り組んでいる。 TNGデータには、宇宙大規模構造を再現した立方体(1辺205Mpc/h)内に約200万個の銀河が分布している。始めに粒子分布の質量ゆらぎのパワースペクトルを求め、実空間&赤方偏移空間共に線形理論と良い一致を示すことを確認した。また同様の計算を銀河分布に対しても行い、良い一致をみた。次に以下の手順で銀河の速度場を推定した。まず、あるスケール(r_s)でならした密度分布を粒子分布から出す。次に流体力学の連続の式を摂動的に解いて、密度場から速度場を導出する。この際、線形理論だけでなく、2次摂動の効果を取り入れたモデルを用いた。より小スケールr_sで平均化すると、非線形領域を扱うため、高次の摂動論が重要になる。我々は銀河の視線方向の特異速度の分布関数(PDF)を求め、元々の分布の標準偏差と、推定した速度場を差し引いたあとの標準偏差を比較し、どの程度標準偏差が減少するか調べた。その結果、r_s=10Mpc/hとしたときに、実空間&赤方偏移空間でそれぞれ約15%&5%、特異速度の標準偏差が減少することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀河の視線方向の特異速度の標準偏差は赤方偏移z=0で約300km/s程度になる。この特異速度から密度ゆらぎから予想される速度場を引いて、特異速度を減らす研究を進めている。これまでの研究で、引いた後の特異速度の標準偏差が元の値より約5~15%程度減少させることに成功した。ただ当初の目標は(非常に楽観的であるが)90%程度減少させることだったため、その目標達成には至っていない。改善しない理由のひとつは大きなハロー(銀河群や銀河団)内にいる銀河の速度場のモデル化が難しいためである。これらの銀河は強い重力場中にいるため、摂動論での取り扱いが困難である。また、実空間と赤方偏移空間の両方を扱っているが、赤方偏移空間の方が赤方偏移歪み(redshift space distorsion)の影響で特異速度のモデル化が上手くいっていない。 密度ゆらぎの2次摂動の影響(2LPT:2nd order Lagrangian perturbation theory)をモデルに含むことに成功した。ただこれまでのところ、2次摂動の効果によって、特異速度のモデル化が大幅に改善した傾向は見られない。 我々の研究室の院生(3名)にも謝金を支払い、シミュレーションデータの管理や数値計算を手伝ってもらっている。そのため計画通りに研究を遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から高密度領域(例えば銀河群や銀河団内)にある銀河は、特異速度のモデル化が難しいことがわかった。そのため、今後はこれらの銀河は考慮せず、単独で存在する銀河(field galaxy)のみを考える。具体的には、ひとつのハローにひとつの銀河しか含まれていないサンプルを選ぶ。これにより、高い密度ゆらぎの領域を考慮する必要がなくなるため、摂動論の精度が大幅に改善する。 密度ゆらぎを大スケール(10Mpc/h以上)でならせば、線形理論とよい一致をみる。小スケールで効く非線形性を考慮するため、密度場と速度場を関係付けるフィッティング公式をTNGシミュレーションから探す。具体的にはシミュレーションから得られた速度場を線形理論の予言値との比を求め、小スケールに行くとどの程度1からずれるかをモデル化する。銀河の絶対等級や星質量ごとに分類し、フィッティング関数を求める。また密度ゆらぎをならすスケールr_sを徐々に小さくしていき、最適な値を見つける。先行研究ではr_s=5~20Mpc/hと置いたものが多いので、それらも参考に最適値を見つける。 当新学術領域研究の主催で開かれたオンラインセミナーと研究会に参加し、口頭発表とポスター発表をそれぞれ行なった。その際に、参加者の方々から銀河サンプルの選び方や非線形性に関する有益なコメントを頂いた。今後の参考としたい。またこれまでと同様に、当研究室の大学院生や連携研究者の方々も巻き込み研究計画を進めて行く。
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Research Products
(17 results)