2020 Fiscal Year Annual Research Report
連星中性子星合体に伴うガンマ線放射の理論研究
Publicly Offered Research
Project Area | Gravitational wave physics and astronomy: Genesis |
Project/Area Number |
20H04751
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
伊藤 裕貴 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (30434278)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ガンマ線バースト / 輻射輸送 / ショックブレイクアウト |
Outline of Annual Research Achievements |
連星中性子星合体によって生じた重力波であるGW170817とほぼ同時に観測されたガンマ線放射(GRB170817A)の起源として有力視されている説に、合体に伴う放出物質(エジェクタ)を衝撃波が突き抜ける際に光子を解放する“ショックブレイクアウト”がある。この衝撃波は相対論的輻射媒介衝撃波になっていると考えられているが、その散逸過程の物理は確立していないため、ショックブレイクアウトの性質は未解明な要素が多いというのが現状である。本研究の目的は、独自に開発した数値コードを用いて相対論的輻射媒介衝撃波の第一原理計算を行うことにより、エジェクタからのショックブレイクアウトに伴う放射を理論的に精査することである。これによって、GRB170817Aの起源を明らかにするとともに、今後増加すると予想される連星中性子星合体に伴うガンマ線の観測と直接比較が可能となる理論を構築する。今年度は、主に独自に開発した相対論的輻射媒介衝撃波を計算する数値コードに、連星中性子星合体のエジェクタに含まれているr過程で生成された重元素の効果を実装することを行った。
その結果相対論的輻射媒介衝撃波下流の温度は、従来の陽子・電子プラズマを仮定した計算と比較すると下がることが明らかになった。その要因は、重元素の電荷が大きいために制動放射による光子生成率が増大するためである。この結果は、連星中性子星合体に伴うショックブレイクアウトの放射は同じ速度の衝撃波を仮定した場合、従来の計算と比較してスペクトルのピークエネルギーが低くなることを示唆している。また、電子・陽電子プラズマが発生する衝撃波の速度の下限に関しても従来の見積もりより高くなることが示唆された。これらの結果は、連星中性子星合体に伴うショックブレイクアウトの放射をモデル化する上で大変重要な情報である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の目標は光速度の10~50%の速度を持った衝撃波の計算を行うことであったが、r元素の効果を実装するための作業が予想以上に時間を要したため、まだ一部の計算しか実現できていない。そのため、現在の進捗状況としてはやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は今年度完遂できなかった光速度の10~50%の速度を持った衝撃波の計算を実行し、さらには相対論的な速度の場合の計算にも取り組み、系統的な研究を行う予定である。
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