2020 Fiscal Year Annual Research Report
金属錯体ハイブリッドによる炭化水素の官能基化
Publicly Offered Research
Project Area | Hybrid Catalysis for Enabling Molecular Synthesis on Demand |
Project/Area Number |
20H04810
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石田 直樹 京都大学, 工学研究科, 講師 (70512755)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炭化水素 / 光 / 遷移金属触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、化学合成の最上流に位置する原料である炭化水素化合物を直截的に官能基化する反応の開発を目指して、複数の触媒の協働的な働きについて研究している。昨年度までに、光の作用によって炭化水素化合物からラジカル種を発生させる光触媒と、遷移金属触媒の協働作用によって、①二酸化炭素と反応させてカルボン酸を合成する反応や、②アルデヒドと脱水素しながらカップリングさせてケトンを得る反応などの、前例のない合成手法を開発してきた。今年度は、これらの知見をさらに推し進めて、二酸化炭素やアルデヒド以外のカルボニル化合物との反応に応用することを試みた。その結果、イソシアナートと直截的にカップリングして、アミドを得る反応を世界に先駆けて見出した。既存の合成手法を用いて炭化水素化合物とイソシアナートを反応させるには、炭化水素化合物にいったんハロゲンを導入して、さらにそれを金属に置き換えてからイソシアナートに付加させる必要があったが、今回の成果で一段階で付加させる経路が明らかになった。また、エナンチオ選択的な反応の実現を目指して、ニッケル錯体上の配位子としてキラルなものを検討したところ、60% ee程度の光学純度で目的のアミドを得ることができた。今後、さらに配位子の構造修飾を進めることで、高い光学純度でアミドを合成できるようになると期待される。 また、前年度までの研究の途中で得られた想定外の結果に端を発した研究によって、①フェノール誘導体とアルデヒドの脱水素交差カップリング反応や、②太陽光とエタノールで再生可能な水素供与体を開発できた。①の反応は脂肪族水酸基の存在下でもフェノール性水酸基のみを選択的にアシル化するユニークな触媒反応である。②の成果は持続可能で安全な水素発生法として、合成化学に応用されることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の実績概要で述べたように、当初計画した案に沿って、炭化水素化合物とイソシアナートの直截カップリング反応によるアミドの生成反応を開発することができた。キラルな配位子を用いたエナンチオ選択的な反応についても、発展が期待できる選択性が発現しており、順調に研究が進展している。また、当初予想された成果とは異なるが、この一連の研究の過程で得られた偶然得られた知見を基盤として展開することで、①フェノール誘導体とアルデヒドの脱水素交差カップリング反応や、②太陽光とエタノールで再生可能な水素供与体など、想定外の反応・化合物を開発できている。これらの状況を踏まえて、「(1)当初の計画以上に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
順調に研究が進んでいるため、当初の計画に従って研究を進める。まずは昨年度に引き続いて、炭化水素化合物とイソシアナートの直截カップリング反応によるアミドの合成反応の基質の適用範囲などの検討を行い、学術論文として報告する予定である。また、最も入手の容易なカルボニル源である一酸化炭素と直接的に反応させてカルボニル化合物を合成する反応を検討する。これまでに開発した反応の機構を元に考えると、一酸化炭素は炭化水素化合物に取り込まれることが期待される一方で、過剰量の一酸化炭素によって、触媒が反応不活性な錯体へと変化してしまう恐れがある。このため、これまで開発してきた反応よりも難度が高いことが予想される。この問題を避けるために、通常の配位子や溶媒の検討に加えて、一酸化炭素ガスの濃度や添加速度についても検討する。一酸化炭素ガスではうまくいかなかった場合は、過剰量の一酸化炭素ガスが存在することを防ぐ目的で、ギ酸エステルやN-ホルミルサッカリンなどの固体の一酸化炭素源なども検討する。二酸化炭素を反応系中で還元して、徐々に一酸化炭素を発生させる手法も候補の一つである。 また、上述の方針に基づいて、炭化水素化合物に官能基を導入する反応を着実に開発するとともに、その研究過程で得られた予想外の結果を起点として斬新な反応の発見を目指したい。合成実験では予想していた生成物のみならず、想定外の生成物が得られることがままあり、今年度の成果のように、予想外の成果に結びつくことがある。むしろ、予測していない結果の方が革新的なことも多い。予想外の結果の新規性・有用性について随時検証することで、新しいハイブリッド触媒や合成反応の可能性を模索したいと考えている。
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Research Products
(6 results)