2020 Fiscal Year Annual Research Report
がんに起因する多臓器代謝異常に対する宿主アダプテーションのトランスオミクス解析
Publicly Offered Research
Project Area | Transomic Analysis of Metabolic Adaptation |
Project/Area Number |
20H04842
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河岡 慎平 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特定准教授 (70740009)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 代謝アダプテーション / 代謝 / マルチオミクス / がん悪液質 / マウス遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
根治不能ながんはやがて個体を死に至らしめる。しかし、がんが根治不能であるからといって、個体がすぐに死んでしまうわけではない。このことから、個体には、がんによって生じる撹乱に対してアダプテーションする能力が備わっていると考えられる。本研究は、新学術領域「代謝統合オミクス」の一員として、がんによって生じる代謝異常に対して個体がどのようにアダプテーションするのか、そのメカニズムを解明しようとするものである。
本年度は、これまでおこなってきた研究に立脚して、がんによって生じる多臓器の変容をマルチオミクス解析によって記載し、観察された変容を「異常」と「アダプテーション」に分類することを試みた。具体的には、がんによって生じる異常のいくつかを緩和することができる遺伝子欠損マウスを活用した。本マウスを用いることで、観察された分子的な変容が「異常」であったのか、それとも「アダプテーション」であったのかを切り分けることが可能になると考えた。
その結果、代謝異常が観察される複数の臓器において、がんによる撹乱とアダプテーションが拮抗していること、また、この現象に関与していると思われる新規な因子を見つけることができた。さらに、これらの現象の一部を培養細胞レベルの実験系へと落とし込むことを試み、一定の成果を得た。以上の研究により、担がん個体で観察される変容を、代謝アダプテーションという新しい観点から説明するための基盤が得られたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
がんによって起こる宿主の代謝異常は極めて多様であり、複雑である。独自に作出した遺伝子欠損マウスとマルチオミクスを組み合わせるというアプローチによって、この複雑な現象の切り分けに成功しつつある。前期公募研究での共同研究における計測条件の検討がこの進捗につながった。得られた成果の中には、これまでに知られていなかった代謝経路同士のリンクや、代謝物の新規な機能を示唆する結果も含まれており、今後研究をさらに発展させられるのではないかと期待している。また、本領域のサポートを受け、当該因子ではない別の因子が関与する撹乱に対するアダプテーションの実態を掴むこともできつつある。以上のことから、研究が概ね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにおこなってきた代謝アダプテーションに関する研究を論文として発表することに注力しつつ、得られたマルチオミクスデータを統合的に表現するための手法論を検討する。時間解像度の問題でマウス個体では検証しきれない問題があることも判明しているため、必要に応じて培養細胞系をうまく活用し、この問題を解決する。以上の研究により、がんによって起こる多臓器の代謝異常という複雑な現象を丁寧に整理していきたいと考えている。
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Research Products
(7 results)