2020 Fiscal Year Annual Research Report
冬眠・人工冬眠・生命保護を結ぶ代謝アダプテーション
Publicly Offered Research
Project Area | Transomic Analysis of Metabolic Adaptation |
Project/Area Number |
20H04849
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
小早川 令子 関西医科大学, 医学部, 教授 (40372411)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 冬眠 / 人工冬眠 / 生命保護 / チアゾリン類恐怖臭 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちは、チアゾリン類恐怖臭(Thiazoline-related fear odor: tFO)刺激は低体温、低代謝、低酸素抵抗性を誘導し、致死的な低酸素状態での長時間の生存を可能にするという新たな生物学現象を発見した(Matuso et al., Commun biol 2021)。TFO刺激をマウスに10時間程度連続して行うと体温は室温近くにまで低下した。その後、tFO刺激を中止すると体温は正常な状態にまで回復した。従って、tFO刺激はマウスを人工冬眠状態に誘導できる感覚刺激である。硫化水素刺激を行うことでマウスを人工冬眠状態に誘導できることが知られる。硫化水素はミトコンドリアの酸素呼吸を阻害する強い毒性を持つが、低濃度での刺激であれば酸素呼吸を適度に阻害でき、低体温状態を誘導すると考えられている。硫化水素をヒトの人工冬眠誘導剤、その結果誘導できる、虚血時の脳神経細胞保護薬として利用できる可能性があるが、安全性の問題は懸念点となる。これに対して、tFOは硫化水素とは異なりミトコンドリの酸素呼吸を阻害する活性を持たない。また、tFOは三叉神経と迷走神経のTRPA1受容体に結合することで、脳へ感覚信号を伝達しその結果、感覚誘導性の人工冬眠状態を誘導できるという作用機序が大きく異なることが明らかになった。興味深いことに、tFO誘導性人工冬眠状態では、自然の冬眠状態とは異なり、血液中の酸素飽和度が上昇したり、脳へのグルコース取り込み量が増加したりした。また、両者の状態では活性化される脳領域が大きく異なっていた。TFO刺激は脳へのグルコース取り込みを加速するが、PDHの活性を抑制することでミトコンドリアの酸素呼吸は抑制していることが明らかになった。この結果、低酸素環境での脳保護作用が誘導されることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自然の冬眠とtFO誘導性の人工冬眠状態が異なる生体応答であることを解明した。TFO誘導性の人工冬眠状態は危機状態での生命保護作用を極大化すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
冬眠の制御には脳の視床下部経路が重要な役割を果たすと考えられている。一方、tFO誘導性人工冬眠の制御には脳幹-中脳経路が重要な役割を果たすことが明らかになっている。両者を司る脳経路の違いを機能的に解明することで、両者で誘導される生理状態の違いを生み出す原理を解明する。
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