2020 Fiscal Year Annual Research Report
倍数ゲノム複製機構がもたらす新規機能獲得と進化速度の両立
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
20H04862
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大林 龍胆 静岡大学, 理学部, 助教 (90778333)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゲノム倍数性 / シアノバクテリア / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノム倍数化は、現存する様々な生物種において観測される形質である。古くから倍数体生物は環境変動などへの適応能力が高いことが示唆されているが、その基本原理の解明には至っていない。本課題では、一見矛盾するゲノム倍数性の進化に対する影響を、実験と理論の両面から定量的に捉え、ゲノム倍数化と進化の間に存在する普遍原理の解明を目指す。 (1)複数コピーゲノムの複製、遺伝様式の解析:1細胞イメージングによる染色体トラッキング まず各染色体を蛍光標識し、その動態をリアルタイムに計測することに成功した。その結果、ゲノム複製の選択性はなく、ほぼランダムに複製されるゲノムが選択されることが示唆された。さらに、このランダムな複製においても、わずか数世代でどれかひとつのゲノムに固定されることも明らかになった。以上の結果は、進化可能性を予測する上で基盤となる観察結果であり、シミュレーションにもこの複製、遺伝様式を取り入れ解析中である。 (2)細胞集団における倍数ゲノムの遺伝様式 集団レベル(コロニー形成段階)において、二つのヘテロなゲノムを持つ細胞から一つのゲノムに固定されるまでの世代数と、どの程度(世代数)ヘテロな状態を維持できるのかを定量する構成的手法を確立した。その結果、約15世代後にはヘテロなゲノムを持つ細胞は1%程度であり、その他ほとんどの細胞はどちらか一方のゲノムに固定されていることがわかった。さらに、複製、分裂の変異体を用いてこの遺伝率がどう変化するのかも解析中である。倍数性が進化に与える影響の条件としてヘテロな状態を保てることが重要であるが、通常の生育条件ではヘテロな状態を長く維持できないことが実験的に示された。しかし、変異体を用いた解析より、成長が速い条件ではヘテロ状態を長く保てることも示唆されており、条件依存的に進化可能性が異なることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1細胞イメージングの系を確立し、その解像度を上げることにも成功した。また、計画にはなかったが集団としても遺伝様式を定量する系を確立でき、この評価系のおかげで様々な変異体での解析も可能になった。以上のように、実験的に遺伝様式を定量化し、理論シミュレーションの基盤となるデータを得られた。また、倍数ゲノム生物における進化理論の構築も進行中であり、最後の実験的検証段階まできている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果より我々は、同時に複製されるゲノムの数が揺らぎ、複数のゲノムが同時に複製されると不均一性が保たれ、ゲノム重複による新規形質の獲得が起こるのではないかという仮説を立てた。すなわち複製システム自身の揺らぎにより、選択的にゲノムを遺伝し進化速度を速くする状態と、ゲノムの不均一性を高め新規形質の獲得を促す状態がシフトしうる。本年度はこの複製システムの揺らぎを人為的に変動させ進化可能性に与える影響を解析する。また、人工進化実験と理論を併用することによりゲノム遺伝の選択性とゲノム間の不均一性、そして進化速度の関係を明らかにする。 (1)構成的に複製されるゲノム数を操作することによる進化速度の検証 昨年度は、複製システムの揺らぎと変異率を測定したが、進化を理解するためにはそれだけでは十分でない。そこで、本年度には進化速度や新規形質獲得の可能性を、構成的にゲノムの複製数を変化させてコントロールすることで検証する。さらに、ゲノムの倍数性を変化させた際の進化速度なども同時に計測し、ゲノム数と複製するゲノム数とでどちらが進化に影響するのかを検証する。 (2)人工進化実験による進化速度と新規形質獲得の検証 昨年度と同様に、人工進化実験による検証を行う。本年度は実際に進化させた株のゲノム解析なども同時並行で行い、実際に新規形質の獲得と進化速度が両立するのかを検証していく。さらに、進化シミュレーションにより、理論的には中立状態での進化速度は倍数性に限らず変化しないことが示唆されている。したがってこの実験的検証も行っていく。
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Research Products
(3 results)