2020 Fiscal Year Annual Research Report
酸素で生じた「ゆらぎ」が「パターン形成プログラム」へと進化した分子基盤の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
20H04863
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 幹子 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (40376950)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 進化発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
四肢のパターン形成において、指と指間の分離は、両生類では細胞の増殖速度の違いによって行われるが、羊膜類になると指間の細胞が死ぬ「指間細胞死」によって行われるようになる。我々は、前回の公募研究では、四肢動物が「大気中の酸素」に曝されると、指間に活性酸素種が産生されて指間細胞死が促されるという研究成果を得た (Cordeiro et al., 2019 Dev Cell)。さらに、両生類であっても、胚発生中に高い酸化ストレスに曝されると指間に細胞死が誘発されることが明らかとなった。そこで本研究課題では、ストレスに応答した個体発生の「ゆらぎ」として生じた細胞死が、「パターン形成に不可欠な発生プログラム」へと進化した分子的背景に迫ることを目標に研究を行うこととした。 (1) ニワトリ胚の指間で酸化ストレスに応答する経路の解明:これまでに、ニワトリ胚の指間で酸化ストレスにより可塑的に細胞死を促す複数の経路の候補を同定できている。 (2) ニワトリ胚の指間で細胞死を制御する経路の解明:羊膜類ニワトリ胚を題材に、ROS シグナル経路と Bmp シグナル経路が指間細胞死を促す過程で、それぞれの経路がどこで合流するのかを明らかにすることを目標として、解析を行い、現在までにROS の産生源の候補を絞れている。 (3) 両生類の指間での酸化ストレスによる細胞死誘導経路の解明:(1) と (2) で明らかとなったニワトリ胚の指間での細胞死経路のうち、両生類の幼生の指間でも確立している経路については、引き続き検証中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、(1) ニワトリ胚の指間で酸化ストレスに応答する経路については、候補を絞ることができ、(2)ニワトリ胚の指間で細胞死を制御する経路については、活性酸素種の産生源の候補を絞ることができた。一方で、両生類の幼生を使ったアプローチでは、アフリカツメガエルだけでなく、幼生期を陸で過ごすために、高濃度酸素に晒され、指間に細胞死が生じるコキコヤスガエルを引き続き使用することが望ましいとする結果を得たが、コロナ禍で渡航ができず、コキコヤスガエルでの実験が不可能となったため、国内で入手できる両生類から、実験動物を探すことになった。しかし、この困難な状況にあったからこそ、新たに国内で入手可能な野生の両生類の幼生で、必ずしも陸で発生しなくとも、幼生期の行動様式で高い酸素環境下にいることで、指間に細胞死を生じる種をみつけることができた(Ono et al., 投稿中)。これらのことから、おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) と (2)の研究では、ニワトリ胚の指間での細胞死経路の候補が絞れてきているので、こちらについては、引き続き研究を継続する。また、国内で入手できる両生類の幼生を使った実験も可能となったことから、今後は、(3) 両生類の指間での酸化ストレスによる細胞死誘導経路を解明するために、この両生類の幼生も用いた研究を遂行する。
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