2020 Fiscal Year Annual Research Report
腸内感染と運動性の揺らぎが導く細菌病原性分泌装置への進化の実験的解明
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
20H04864
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
寺島 浩行 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (60791788)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 細菌べん毛 / III型分泌装置 / 感染 / 進化 / 病原性 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌は、運動器官である細菌べん毛と病原性タンパク質注射装置であるIII型分泌装置を持っている。両者は同じ起源から機能分化・進化した細胞小器官であると考えられている。しかしながら、どのような遺伝的な変化、表現型の変化を経て、べん毛とIII型分泌装置へと進化したのかよくわかっていない。本研究では、まず、III型分泌装置を欠損し病原性が減弱したネズミチフス菌(サルモネラ属菌)をマウスへ継続的に摂取・感染させる。しかしながら、III型分泌装置欠損株は、腸内で定着できず体外へと排出される。その中で腸内に定着する変異株や病原性の回復する変異体を取得する。そして、病原性が生まれる仕組みと、べん毛からIII型分泌装置への進化を駆動する遺伝的な変化を明らかにする。令和2年度の研究においては、継続的な感染実験に必要なネズミチフス菌の変異体を作成した。具体的には、2種類あるIII型分泌装置(SPI-1、SPI-2)を構成する遺伝子群を欠損させた変異株の作成をした。欠損領域には、テトラサイクリン耐性遺伝子を組み込んであることから、感染実験の時に糞便からネズミチフス菌を回収し、再度培養した後、マウスへと再感染実験をすることができるようにした。また、Lonプロテアーゼの欠損によって、マウスを殺さず持続的な感染状態を作ることが知られていた。そこで、Lonプロテアーゼ欠損株の作成も行った。本来であれば、すでにマウスへの継続的な感染実験を開始する予定であったが、新型コロナ感染症の蔓延による実験スケジュールの遅れから、まだ感染実験が開始できていない。現在、異動した長崎大学熱帯医学研究所にて、動物感染実験の設備のセットアップを行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
これまでに、継続的感染実験に必要なネズミチフス菌のIII型分泌装置欠損変異株の作成を完了した。本来の計画では先年度には、マウスへの継続的感染実験を開始する予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で共同研究先との連携が十分に取れなかったため、感染実験がまだ開始できていない。現在、異動した長崎大学熱帯医学研究所にて、動物感染実験の設備のセットアップを行っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、作成したネズミチフス菌をマウスへと投与し、糞便中に排出される菌がいつまで観察されるか計測する。これまでの様々な研究から、1週間待たずに腸内細菌叢との競合によって排除されてしまうと思われる。日ごとの菌数をコロニー形成数として計測し、それを基準としてマウス腸内への定着が上昇した変異体の評価を行う。また、糞便中の炎症マーカーリポカリン2などを指標にして、病原性の回復した変異体の評価を行う。週に一回、糞便から回収したネズミチフス菌を、再度培養・マウスへ摂取させ、長期間(1年以上、可能であれば数年単位で行う)ネズミチフス菌を腸内に投与し続ける。上記のような腸内定着能が上昇した変異体や病原性が回復したような変異体を取得し、全ゲノムシーケンス解析によってどのような領域に変異が生じているのか明らかにする。また、EMSによる変異原処理したネズミチフス菌も用意してあるため、それも同様に継続的感染実験を行い、定着能が上昇するあるいは病原性が回復するような変異体を取得する。
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