2020 Fiscal Year Annual Research Report
仙椎-後肢ユニットの形態の制約と個体間の位置のゆらぎを生み出す分子機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
20H04867
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 孝幸 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (40451629)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遺伝子発現 / ゆらぎ / 発生 / 骨格パターン / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちの体は前後軸に沿って正しい位置に器官が配置されることで機能的な体として成り立っている。脊椎動物において、体の前後軸パターンは発生中に将来の脊椎骨となる体節に発現するHox遺伝子群によって領域分けされ、それぞれの体節レベルに特定の器官が形成されることで、秩序だった体の構造(椎式など)が完成する。我々は、体節の前駆組織である中軸中胚葉の後端に発現するTGF-βスーパーファミリーの分泌因子GDF11が、中軸中胚葉において仙椎の個性の決定を行うHox11遺伝子群の発現を誘導し、仙椎の位置を決定していることを見出した。興味深いことに、体の前後軸に沿った仙椎の位置は同一種内においても異なる個体が存在する。シマヘビでは同一の母親から生まれた兄弟間でも仙椎の位置は最大で脊椎骨14個分異なっている。そこで我々は、個体間での仙椎の位置のゆらぎが生まれるメカニズムを、GDF11とHox11遺伝子群の発現ゆらぎの視点から解明を試みた。 2020年度には、同一の転写因子などの細胞内タンパク質の量があるときに、遺伝子発現にゆらぎを生じやすい機構は何かを明らかにするために、ニワトリの精子をウズラのメスに人工授精させることによって生まれるニワトリ-ウズラのF1雑種胚における遺伝子発現量を次世代シークエンスの手法を用いて解析し報告した(Ishishita et al., 2020, Plos one)。この結果から、同一の細胞内環境においてもニワトリとウズラの遺伝子の発現量が大きく異なるものが存在し、それらの遺伝子発現はゲノムの中でもとりわけ遺伝子の発現量を調節する因子によって決まっている可能性が強く示唆された。本研究成果は、新学術領域の目標である遺伝子発現のゆらぎやすさのメカニズムを解明するための大きな成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで仙椎領域がゆらぐメカニズムの解明では、培養細胞系を用いてGDF11の濃度と時間のどの働きがHox11遺伝子群の発現に重要であるのかを調べた。マウスのES細胞を脊椎骨の前駆組織である前体節中胚葉の細胞に分化誘導し、その細胞に様々な濃度のGDF11タンパク質、及びに作用時間を変化させてHoxa11, Hoxc11, Hoxd11の発現量をRT-qPCRを用いて調べた。その結果、Hox11遺伝子群の発現は濃度と時間依存的に発現が上昇することが分かった。さらに、Hoxc11の発現に関して時間と濃度の相乗効果が発現に寄与していることが定量的に示された。これらのことから、生体内においてもPSMの後端に発現するGDF11タンパク質の濃度と作用時間に依存してHox11遺伝子群の発現が誘導されている可能性が示唆された。特に、Hox11遺伝子群の中で最も前側に発現することが分かったHoxa11の発現領域もこのメカニズムによって発現領域が規定されるため、これにより個体間の発現領域のばらつきが生じ、仙椎の位置が体の前後軸上に沿ってゆらぐことが考えられた。 次に、これらのHox11遺伝子群の発現を制御しているメカニズムを明らかにするために、スッポン、マウス、ニワトリ、シマヘビのそれぞれの胚を単離し、Hox11遺伝子群のPSMにおけるエンハンサーを同定したいと考えた。シマヘビは個体間で仙椎の位置のゆらぎが大きく、これと比較するためにスッポン、マウス、ニワトリのエンハンサー配列も同定したいと考えた。Hox11遺伝子群が発現している前後のステージにおいてそれぞれの種の胚を単離し、オープンクロマチン領域を網羅的に同定出来るATAC-seqを行った。現在RAWデータからIGVを用いてHox11遺伝子座周辺の配列のピークからエンハンサー候補領域の選定を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、Gdf11の発現が個体間でどれだけゆらぎが大きいかを調べるために、当研究室で数十年近交系として交配を続けているGSP系統のニワトリの単一のオスとメスを、人工授精により交配し、有精卵を採取している。この有精卵から胚を採取し、Gdf11の発現が開始される10体節期のステージにおけるGdf11の発現量のゆらぎをRT-qPCRを用いて明らかにする。この時にGdf11とともに、発現量の個体間のゆらぎの程度を比較するためにHox遺伝子や、ハウスキーピング遺伝子など複数の遺伝子の発現量と比較する。 これまでの研究で、Hox11遺伝子群の中でHoxa11遺伝子の発現が最も前側の体節で見られることが明らかになっている。現在Hoxa11遺伝子を前体節中胚葉の前側まで発現領域を拡大させる実験を行っている。この胚において仙椎の領域が前側にシフトするのかを骨染色により調べる。 現在計画班とともに、シマヘビの全ゲノム解読を行っている、2020年度にシマヘビ胚を用いたATAC-seqを行っているので、2021年度の前半にシマヘビのゲノム解読を追えて、ATAC-seqのデータをマッピングし、仙椎の位置のゆらぎが大きいシマヘビのGdf11とHoxa11遺伝子のエンハンサー候補領域を探索する。得られたエンハンサー配列をニワトリやマウスと比較し、遺伝子発現がゆらぎやすい分子メカニズムを解明する。
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