2020 Fiscal Year Annual Research Report
Analyzing the learning behaviors of lithic technology in the Middle Pleistocene archaeological sites and its implications for the study of human evolution
Publicly Offered Research
Project Area | Studies of Language Evolution for Co-creative Human Communication |
Project/Area Number |
20H04988
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高倉 純 北海道大学, 埋蔵文化財調査センター, 助教 (30344534)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 学習行動 / 更新世 / 文化進化 / 石器製作技術 / 教示 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、人類が「意図共有」がおこなうコミュニケーションの進化的基盤の出現年代とその淘汰メカニズムを解明するために、西ユーラシアにおける中期更新世人類遺跡において石器製作技術の学習行動の復元に取り組み、とりわけ「意図共有」の具体的なプロキシとなりうる教示行動の出現がいつ、どのように始まったのかを明らかにすることを目的としている。これまでの先行研究を体系的にレヴューすることによって、遺跡内で執り行われていた石器製作技術の伝習のプロセスに関する研究の枠組みと基礎となる概念の批判的検討をおこない、そのうえで西アジアの中期更新世遺跡においてアシューレアンからヤブルディアンの時期にかけての石器資料の分析に取り組み、石器製作技術の伝習のプロセスを解明することを具体的な目標としている。 石器製作技術の伝習のプロセスに関する研究の枠組みを再点検するために、第一に、石器製作実験を通して、どのような学習行動が技術の習得に不可欠であったのかを明らかにしようとする研究の問題点を検討した。結果的に、かならずしも解明すべき課題に対応して有効な実験の条件設定がなされてこなかったという点を確認できた。第二に、旧石器時代遺跡内での学習行動を復元しようとする先行研究を取り上げ検討した。そこでは、石器資料において技量差を判別できる普遍的な指標が存在すると考えられ、それにもとづいて議論が進められてきた。しかし、そうした指標とされたものは、個々の遺跡の形成過程のコンテクストや剥離作業を取り巻く状況から影響を受けている可能性があり、それらの総合的検討の重要性を明らかにした。 以上のレヴューをふまえ、先史人類における石器製作技術の学習行動の研究にとって有効な枠組みの整理をおこなうことができた。ただし、海外での石器資料の分析は、新型コロナウィルスの感染拡大により、具体的な作業に取り組むことはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ヨーロッパを中心に1980年代以降に進展してきた旧石器時代遺跡を対象とした石器製作技術の分析的研究、および石器製作実験の手法を利用した石器製作技術と学習行動の関係性を明らかにしようとする先行研究の渉猟により、石器製作技術の学習行動とその進化に関する研究の枠組みの整備、あるいは基本的な分析方法の見通しについては、一定の成果をあげることができた。それにもとづいた総説論文の執筆も進んでいる。 しかし、海外の研究機関において、中期更新世遺跡からの出土資料を対象とした詳細な石器製作技術分析を実施することができなかったため、当初計画されていた西アジアでのアシューレアンからヤブルディアンにかけての時期の学習行動の進化に関する研究を具体的に推進していくことはできなかった。そのため、本研究計画で解明を目的としていた、人類における技術の教示行動がいつ頃、どのような背景で出現するに至ったのかを具体的に明らかにするには至っていないことになる。 代替的に、北海道の旧石器時代遺跡での学習行動の復元にかかわる資料分析に着手している。これは、資料分析の遂行によって研究方法の問題点について再点検をおこなうことを目指したものである。石器製作作業の進行に応じて、割り手の技量が変化するという現象を識別することを通して、割り手の交替を見出す方法を確立することを目的としている。こうした現象は、熟練者から初心者への意図的な教示行動を反映する可能性があり、中期更新世遺跡での分析においても有効な観点になるであろうと予測される。成果の取りまとめは次年度以降の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
北海道の旧石器時代遺跡内での石器資料を対象とした学習行動の分析を通して、研究方法の再検討を進める試みは継続して実施していく。そこで把握できた分析方法は、同様の現象が西ユーラシアの下部旧石器や中部旧石器時代遺跡から得られる石器資料においても観察が可能であると考えられる。接合資料が無くとも抽出が可能な現象であるため、分析の実現可能性の高さという点でも有効な観点になるであろうと予測される。今後は、北海道での資料分析の成果を取りまとめていくことにしたい。 海外への渡航が可能となる状況になれば、西アジアでの中期更新世人類遺跡から出土した石器資料分析を実施し、当該期における石器製作技術の学習行動を明らかにする検討課題に取り組んでいくことにしたい。分析対象として念頭においているのは、アシューレアンの両面調整技術とヤブルディアンの石核からの剥片剥離技術である。分析の実現のために、資料を収蔵している海外の関係研究機関の研究者と綿密に連絡をとりあい、研究の実現にかかわる事前準備および情報収集を続けている。この研究の成果は、国際査読誌に国際共著論文として成果を取りまとめ公表することを計画している。
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