2020 Fiscal Year Annual Research Report
Mathematical sciences in aging and diversity of hematopoietic stem cell
Publicly Offered Research
Project Area | Integrated analysis and regulation of cellular diversity |
Project/Area Number |
20H05042
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
岩見 真吾 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90518119)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 数理モデル / データ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
造血幹細胞は、自己複製能・多分化能という特徴的な機能を有しており、1細胞レベルで体内における動態を詳細に評価できる数少ない細胞の一つである。古くから研究がなされ、他の幹細胞研究において基礎的な知見を与えてきたが、造血幹細胞の分化経路や詳細なメカニズムは未だ明らかではない。従って、造血幹細胞が造血系を維持する機構を解明することは、他の臓器・細胞の恒常性の維持機構の解明にも応用でき、造血系の恒常性の破綻に起因する疾患の研究において基礎的な知見を与えることが期待できる。本研究では、1細胞レベルでの造血幹細胞の動態を解析することにより、造血幹細胞の恒常性維持機構の解明に向けて数理モデルを構築した。具体的には、研究協力者が発表した新しい造血幹細胞分化経路を含んだ分化モデルを定式化し、実験データから各種のパラメータの推定に取り組んだ。定量的なデータ解析の結果から、従来の造血幹細胞分化経路とは別の新しい経路が存在することの意義を定量的に明らかにした(造血幹細胞が維持する細胞ダイバーシティの役割の理解)。また、造血幹細胞の能力は老化(エイジング)により、その能力が変化することが分かっており、免疫系譜の再構築に与える影響についても解析した。老化では加齢に伴い組織の機能低下や組織構造の変化が起こり、様々な疾患の原因となっている。造血幹細胞エイジングの生物学的知見が深まる一方で、加齢関連疾患が発症するメカニズムと細胞ダイバーシティの役割は未だ明らかでない。本研究では、数理モデルを駆使した造血幹細胞移植実験データの解析により加齢に伴う造血幹細胞分化様式の変化を定量的に記述するとともに、造血幹細胞分化のコンピュータシミュレーションを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、数理科学と実験科学の融合的なアプローチを用いた。具体的には、研究協力者が発表した骨髄球産生を行うバイパスを含んだ分化モデルを定式化し、様々な造血幹細胞1細胞移植実験データからパラメータの推定に取り組んだ。そして、造血幹細胞分化経路の解明およびその老化現象の解明を目的として、造血幹細胞が織り成す、赤血球・血小板への分化能力も含んだ細胞ダイバーシティに着目した、 A)加齢を考慮した造血幹細胞分化の数理モデル構築 B)造血幹細胞移植実験データの解析と細胞機能の定量化・分化経路の解明 C)血液細胞産生のコンピュータシミュレーション構築 に取り組む予定であったなか、A)B)をすでに終えることができた。そして、A)B)C)を有機的に結びつけることで細胞ダイバーシティが織り成すロバストなシステムの特性を定量的に理解した。また、ロバスト性に対するバイパス経路の意義を明確にするために、若齢および高齢マウス造血幹細胞の1細胞移植後に出血・感染などのストレスを与え、システムがどの様に変容し、修復されるのかを実験⇔理論的に解析することもできた。本研究を進める上で使用するデータは既に入手済みであり、また、研究の進捗に応じて追加のデータが必要になった場合にはすぐに実験解析ができる体制は整えられたから。
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Strategy for Future Research Activity |
上記C)について研究を進める。造血幹細胞移植では、致死量放射線照射によりレシピエントマウスの造血幹細胞は消失している。従って、細胞移植直後で造血能力を再構築する段階では、細胞数が少なく、細胞分裂のランダム性により細胞数の変化が大きく変動している可能性がある。微分方程式は平均的な細胞数の変化動態を記述しているため、ギレスピーアルゴリズムを用いて微分方程式の確率シミュレーションを実施する。また、A)で開発したABMを用いてランダム性を比較する指標も導出する。そして、実験で観測されるランダム性が選択された数理モデルにより説明できるかを検証する。この様なサイクルを通じて、免疫系譜再構築実験データを定量的に再現できる血液細胞産生のシミュレータを開発する。さらに、網羅的なコンピュータシミュレーションにより各細胞の履歴を追跡することで、ロバスト性に対するバイパス経路の意義を明確にする。また、“疾病状態”をシミュレートすることで、ロバスト性が維持される機構を分析していく。得られた知見は、造血幹細胞1細胞移植により造血系が回復したマウスに出血や感染によるストレスを与えるといった摂動実験を行うことで確認・検証する。造血幹細胞が維持する細胞ダイバーシティの役割が定量的に明らかになる。
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Research Products
(4 results)