2020 Fiscal Year Annual Research Report
人工脂質二分子膜を活用した水の光分解システムの構築
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
20H05093
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
滝沢 進也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40571055)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工光合成 / ベシクル / イリジウム錯体 / 光増感剤 / 光誘起電子移動 / 水素発生 / ルテニウム錯体 / 水の酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、太陽光エネルギーを化学エネルギーに効率良く変換する人工光合成の実現が強く望まれている。しかし、ボトムアップ的に天然光合成の根源的な姿をモデル化、すなわち人工的な分子システムとして出来るだけ忠実に模倣しようとする研究に限ってみると、挑戦的な課題であるが故にほとんど進展していない。本研究では、両親媒性分子が水中に形成する球状脂質二分子膜(ベシクル)をチラコイド膜にみたて、「膜を横断する可視光駆動電子輸送」と「水の酸化還元触媒系」を連結した水の光分解システムの構築に取り組んでいる。これは、高度に組織化された光合成の本質を理解しようとする試みでもあり、実用的な人工光合成系を構築する上で極めて重要な知見を与えるものである。 令和2年度は、第1目標である「膜を横断する可視光駆動電子輸送」実現に向けて、研究代表者が以前開発したイリジウム(Ir)錯体を光増感剤の候補として選択して研究を進めた。このIr錯体は、可視光吸収能に優れたクマリン6を主配位子、2,2’-ビピリジル(bpy)を補助配位子とするカチオン性錯体であり、光誘起電子移動に好都合な長寿命励起状態をもつという特長を有する。この錯体がDPPCベシクル膜に問題なく取り込まれることを予め確認し、ベシクル内水相に電子供与体としてのアスコルビン酸イオン(Asc)、外水相に電子受容体としてのメチルビオロゲン(MV)を配する系を構築した。その溶液に可視光を照射するとMV還元体が生成し、膜を横断する可視光駆動電子輸送反応が進行することが分かった。さらに、Ir増感剤のbpy配位子にメチル基を導入すると、反応がさらに高効率化した。AscとMVを共に外水相に配置した対照実験ではMV還元体が同じようには蓄積せず、AscとMVを膜で分離する重要性(膜による逆電子移動抑制効果)が実証された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言で研究開始が遅延したにも関わらず、本研究の鍵となる「膜を横断する可視光駆動電子輸送」を実現できたことは初年度の重要な成果といえる。さらに、Ruトリスビピリジル錯体など従来から知られている遷移金属錯体でなく、格段に優れた可視光吸収能を有する独自開発のIr増感剤が有効に機能したことは特筆に値する。できれば還元末端とプロトン還元反応(水素発生)の連動まで研究を進展させたかったが、それに向けた予備的な条件検討(緩衝液の種類、pH、膜分子の種類など)までは行うことができている。これらを総合的に考慮して、「おおむね順調に進展している。」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に膜横断型の光誘起電子輸送反応を達成できたため、この還元末端を水素発生と連動させる。実験としては、MVの代わりに水溶性のNi分子触媒をベシクル外水相に溶解して可視光照射する。発生した水素はGCで定量する。令和2年度末に予備的知見は獲得しているが、必要に応じて、電子輸送を効率よく駆動させつつ触媒活性はある程度維持できるような溶媒やpHを探索する。 また令和3年度は、新たに雇用する技術補佐員のサポートも得て水の酸化反応にも早めに着手する。具体的には、水の酸化触媒をベシクル内表面のみへ配置させる方法の確立を目指す。触媒には、先行研究で最も有望とされているRu錯体を用いる。この触媒は、膜と親和性の高い長鎖アルキル基がエステル結合を介して導入されたピリジン配位子をもつ。従って、このRu錯体を取り込ませたベシクルを一度調製し、外水相に適当な酸を加えて加熱または超音波処理を行うことでエステル結合が加水分解、またはピリジン配位子が脱離し、原理的には外表面のみのRu錯体部位が解離すると期待される。その後、ゲル濾過で外水相に分散したRu錯体を除き、ICP発光分析や消光実験によってRu錯体が膜内表面のみに存在し得るかどうかを検証する。その後、ベシクル膜に適切な光増感剤を共存させ、その外水相に犠牲的電子受容体である過硫酸ナトリウムを添加した条件での光酸素発生を検討する。すなわち、膜を横断する可視光駆動電子輸送と水の酸化反応の連動を実現することで、水の光分解システムへの足掛かりを築く。
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Research Products
(5 results)