2020 Fiscal Year Annual Research Report
光合成マンガンクラスターに酸素発生機能をもたらす基本原理の抽出と検証
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
20H05103
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
磯部 寛 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任准教授 (00379281)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光化学系II / 酸素発生中心 / マンガンクラスター / アミノ酸残基 / 機能発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
光化学系II複合体にあるMn4CaO5クラスターは、太陽光を用いて水から生物の生存に必要な酸素を作ることができる自然界で唯一の触媒である。種々の分光実験から、S2 → S3遷移において新たな基質水分子がクラスター内部に取り込まれることが推測されている。従って、この基質水分子がどのようにMnクラスターに結合してどのように活性化されるのかを解明することは、天然の水分解反応機構を理解する上で極めて重要である。興味深いことに、高周波を用いたEPR研究から、S3状態では磁気的に明確に区別できる複数の化学種が共存していることが報告されている。我々は令和元年度の研究において、S3状態の磁気的に区別される2成分がヒドロキソ種(S = 3)とオキシルオキソ種(S = 6)である可能性が高いことを既に指摘していたので、本年度は、基質活性化の機構解明を目指して、新たな水分子が結合した後これら2つの生成物に至る2系列の反応経路を比較検討した。その結果、MnIVの価数変化を伴わず安定なヒドロキソ種を直接生成する経路の活性化エネルギーが非常に大きい(20.9 kcal/mol)ことが判明した。屈強で安定なキュバン骨格CaMnIV3O4が形成されるからである。一方、最終生成物としてオキシルオキソ種を生成する(Mnと基質の可逆的な酸化還元を伴う)一連のクラスター構造変化は、11.1 kcal/mol程度の低い反応障壁で容易に起こることが分かった。律速段階である基質の活性化(MnIV-OH- → MnIII-O・)が、クラスター外部の親水性領域にある水分子を媒介したリレー形式のプロトン移動と共役して起こるからである。これらの結果は、S2 → S3遷移において新たな酸素原子が隣接する架橋オキソ酸素から非常に短い距離(1.9 Å)に挿入される(half bondが形成される)というXFEL実験結果と整合する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたように、本年度は、S2 → S3遷移におけるMnクラスターによる基質水分子の活性化および酸素-酸素結合形成に関して、独自の反応機構を提唱することができた。この機構は、種々の実験結果、特にXFELを用いたシリアルフェムト秒の構造解析実験で観測されたMnクラスターの光誘起構造変化(Science 2019, 366, 334-338など)と非常によく整合している。これらの成果は既に論文(J. Photochem. Photobiol. A 2021, 405, 112905)として発表しており、順調に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、第一配位圏にあるアミノ酸の配向構造変化に着目した理論計算を実行し、これら残基によるMnクラスターの構造および電子状態制御の可能性と機能発現との関連性を探求する。
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