2020 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of natural and artificial photosynthetic processes by realtime and state-selective analytical methods
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
20H05106
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
恩田 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (60272712)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 時間分解振動分光 / 人工光合成 / 光化学 / 錯体化学 / 超分子錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
天然および人工光合成過程は、多くの化学種が関与した多光子、多電子過程である。そのため従来の反応分析法では、そのメカニズムを理解し、高効率で安価な光合成系を人工的に構築することは困難である。そこで本研究では、実時間で化学種およびその状態を選別して測定が可能な各種時間分解振動分光を開発し、さらにそれらを用いて主要な反応過程のメカニズムを解明すること目的とした。これら得られた成果を系統的、総合的に分析すれば、複雑な光合成過程の詳細な理解、それに基づく人工光合成系の開発が可能となる。 本年度は、これまで開発してきた時間分解赤外振動分光(TR-IR)装置、ピコ秒時間分解発光分光(TR-PL)装置に加え、TR-IRと相補的な情報が得られるフェムト秒可視紫外過渡吸収分光装置を開発し、さらに領域内共同研究により、時間分解広域X線吸収微細構造(TR- TR-EXAFS)も利用して本研究課題に取り組んだ。主な研究実績としては以下のものがあげられる。(1)半導体を光捕集部および電子源、金属錯体を触媒部とした半導体-金属錯体複合体におけるCO2光還元機構の解明、(2) 励起状態構造に関して相補的情報が得られるTR-IRおよびTR-EXAFSを用いたアリールホスフィンRe(I)カルボニル錯体の励起状態構造と光物理的性質の解明、(3) 優れた光増感剤であり、多電子蓄積が可能なリング状多核アリールホスフィンRe(I)カルボニル錯体における分子内エネルギー移動過程の解明、(4)高効率なCO2光還元触媒として知られるRu(II)-Re(I)超分子における反応中間体CO2付加体の一電子還元状態の解明、(5) 人工光合成における安価な光増感剤として期待される各種Cu(I)錯体の光励起発光過程の解明
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で示した(1)~(5)のテーマそれぞれに関して、以下のような具体的成果を得ることができたため。(1)半導体微粒子N-ドープTa2O5およびRu(II)カルボニル錯体の複合体を対象に、その光励起直後の赤外スペクトル変化から光キャリアと錯体の電荷変化を明らかにした。その結果、複合体形成に伴って電子トラップとなるCT状態が生成することが判明した。(2)TR-IR、TR-EXAFSに加え、量子化学計算を用いることによりアリールホスフィンRe(I)カルボニル錯体の励起状態構造を精密に決定した。さらに異なる数のフェニル基をもつ錯体同士の比較により、励起状態の立体障害と発光波長や寿命との間に強い関連があることを明らかにした。(3)リング状多核錯体における錯体間電子移動過程を、TR-IRを用いて構成錯体を選別して実時間測定した。その結果、3核錯体まではフェルスター型、4核では錯体間の衝突による直接エネルギー移動が起こっていることが分かった。(4) Ru(II)-Re(I)超分子触媒を用いたCO2光還元機構に関して、実際の反応中間体である同超分子CO2付加体において、電子移動後に生成する一電子還元状態をTR-IRにより直接観測し、量子化学計算との比較によって、その構造および電子状態を明らかにした。(5) Cu(I)錯体は安価な光増感剤として期待されているが一般にその発光寿命は短い。一方、最近では配位子の選択によりマイクロ秒を超える長い寿命をもつ錯体も報告されるようになってきたが、その理由はわかっていない。そこで、TR-IRを用いて、様々な寿命をもつCu(I)錯体の励起状態ダイナミクスの解明およびその寿命に与える影響を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の各研究テーマをさらに深化させるべく以下の研究テーマを推進する。(1)多数の金属錯体からなる超分子系におけるエネルギーおよび電子移動機構の解明: 多電子、多段階で起こる反応を駆動するためには、異なる役割をもつ金属錯体を集合させた超分子系が必要となる。このような系における金属錯体間のエネルギー移動、電子移動過程を解明する。(2)半導体微粒子および金属錯体からなる複合系における電子移動機構の解明: 多電子反応を容易に行える半導体微粒子および精密な反応制御が可能な金属錯体からなる複合反応系の電子移動過程、光反応機構の解明を行う。(3)銅など安価な金属を用いた錯体における長寿命化、安定化機構の解明: 従来の人工光合成系ではその性能の高さからルテニウム, レニウムなどの貴重な金属錯体が用いられていた。一方、銅、鉄などの安価で豊富に存在する金属の錯体は、励起状態寿命が短い、酸化還元力が弱いなどの問題がある。そこで、その原因および解決法を明らかにし、安価な金属を用いた光捕集剤、触媒の性能向上に貢献する。(4)天然光合成系の光捕集剤であるクロロフィルの光励起エネルギー散逸過程:クロロフィルは天然光合成系において光エネルギーの捕集だけでなく、エネルギー伝達、光毒性の緩和など多くの役割を担っている。このような過程を実時間状態選別的解析により明らかにする。(5)新たな人工光合成系の素材となり得るπ電子系、希土類などを用いた新規光機能性分子の励起状態過程の解明: 光エネルギーを十分利用するためには多様な分子系における光励起過程、反応過程の理解と活用が必要である。そこでここでは、新しいタイプの光機能性分子の励起状態過程の解明と人工光合成系への利用可能性の探索を行う。
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Research Products
(12 results)