2020 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of maze problem and control of energy/electron transfer pathways in the primary process of photosynthesis
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
20H05118
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
長澤 裕 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50294161)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光合成 / エネルギー移動 / 電子移動 / LH2 / 光化学系2反応中心 / PSII |
Outline of Annual Research Achievements |
植物等が行う光合成では、まず太陽光が捕獲され、そのエネルギーが電子の流れに変換され(光電エネルギー変換)、糖やデンプン等の有機化合物の合成が開始される。我々は、この長い光合成化学反応過程において、光の関連した初期過程の研究を行っている。光合成においては、まず、太陽光が光捕集アンテナ色素系において捕らえられ、そのエネルギーが反応中心(RC)と呼ばれる部位まで運ばれ(エネルギー移動と呼ばれる過程)、電荷分離反応が起こる(生体膜を挟んで電位差が生じる)ことによって始まる。光合成を行う紅色細菌は、カロテノイドおよびバクテリオクロロフィルa (BChl-a)と呼ばれる有機色素の集合体をアンテナとして用い、太陽光の捕獲を行っている。ところが、これらのアンテナ色素では、波長が630 nmから760 nmにかけての光を捕獲することが比較的難しいという難点がある。そこで、この波長領域の光を吸収する蛍光性色素を人工的に光捕集アンテナ蛋白質複合体に連結し、その光捕集能力の拡張を我々は試みてきた。今回は、RCの周囲にLH1と呼ばれるアンテナ群が連結した超分子複合体について、異なる波長の光を吸収する何種類かの蛍光性色素を共有結合により付加することによって、その光エネルギー変換機能の拡張を試みた。実験の結果、連結した蛍光性色素からLH1中のBChl-aへの超高速のエネルギー移動が起こり、さらにそのエネルギーがRCまで運ばれ、電荷分離反応が起こることが観測された。さらに、蛍光性色素の付加によって、発生する光電流が増加することも確認した。これにより、人工的に色素を付加することによって、天然の光合成エネルギー変換の機能拡張が可能なことを示した。このような手法は天然の光合成の原理解明だけではなく、人工光合成開発において、効率的に光エネルギーを捕獲するためのアンテナ作成にも応用できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、光合成系の光捕集アンテナ色素系における光エネルギー移動(EET)と反応中心(RC)での電子移動に関する分光学的研究を行ってきた。光合成を行う紅色細菌の光捕集アンテナ複合体LH2は、カロテノイドおよび2つのバクテリオクロロフィルa色素群B800とB850により太陽光を捕集するが、これらアンテナ群の吸収は630 nmから760 nmにかけて比較的弱い。そこで、これらの波長領域に吸収帯を持つ蛍光性色素を人工的に共有結合でLH2に連結し、LH2の光捕集能力の拡張を我々は試みてきた。初期の研究では、LH2に連結した色素からのB800やB850へのEETを観察したが、光エネルギーが実際にRCでの電荷分離、電子移動反応に寄与するかは不明であった。そこで今年度は、脂質二重層環境で形成されたLH1-RC超分子複合体に一連の蛍光性色素(Alexa647、680、750、ATTO647N等)を共有結合することによって、その光エネルギー変換機能の拡張を試みた。RCを取り囲むアンテナ複合体LH1は、LH2よりもさらに長波長の800 nm付近まで吸収が弱く、本来の機能はLH2中のB850から光エネルギーを受け取ることである。フェムト秒過渡吸収分光法による実験の結果、連結した蛍光性色素からLH1中のバクテリオクロロフィルa色素群B875への超高速EETと、それに続くRCでの電荷分離反応が観測された。 EETの速度は、蛍光性色素の発光スペクトルとB875の吸収スペクトル間の重なりが大きくなるにつれて増加し、フェルスター理論の予想とほぼ一致した。また、蛍光性色素の付加によって、電荷分離による光電流生成活性が増加することを確認した。これにより、人工的に色素を付加した光捕集アンテナ複合体のバイオハイブリッドでも、EETにより光エネルギーがRCまで運ばれ、光電流が発生することが判明した。よって、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
紅色細菌の光捕集アンテナLH2は、カロテノイドおよび2つのバクテリオクロロフィル色素団B800とB850により太陽光を捕集する。これら光捕集アンテナ群の吸収は、630 nmから760 nmにかけて比較的弱い。そこで、この波長領域に吸収帯を持つ蛍光性色素をLH2に導入し、その光捕集能力の拡張を我々は試みてきた。初期の研究では、色素の結合様式が不均一であったため、光エネルギー移動(EET)がサブピコ秒から数十ピコ秒の時間領域で多指数関数的に起こることが、フェムト秒過渡吸収(TRTA)スペクトル測定により判明している。そこで今後は、蛋白質の特定部位にシステイン(Cys)を導入して色素を付加することにより、より均一なバイオハイブリッドLH2の作成を試みていく。とくに、B800またはB850の近傍に選択的に色素を配置することで、エネルギー移動経路の制御を試みる。また、LH2中のB800を他の色素に変換する手法によるバイオハイブリッド作成も試みており、今後はこの手法をLH3等の他の光捕集アンテナにも応用する。 反応中心(RC)における電荷分離・電子移動の研究においては、緑色硫黄細菌やヘリオバクテリアのRC、シアノバクテリアの光化学系IとII (PSIとPSII)様々な生物について比較を行い、その相違から進化論的にどのようにRCが構築されていったのか解明する。緑色硫黄細菌やヘリオバクテリアのRCは、鉄硫黄クラスターが末端電子受容体となるType IのRCであるが、内部にキノン類が存在するという実験結果もあり、それがどのように電子移動経路に関与しているか、今後解明していく必要がある。シアノバクテリアのPSIIに関しては、電荷がどのように分布しているのか解明するため、RC内のクロロフィルに配位ているアミノ酸残基を改変したミュータントを用いた実験が現在進行中であり、今後もこれを継続していく。
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