2020 Fiscal Year Annual Research Report
Observation and Control of Time Reversal Symmetry Breaking in Multicomponent Superconductivity
Publicly Offered Research
Project Area | Physical Properties of Quantum Liquid Crystals |
Project/Area Number |
20H05162
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
細井 優 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00824111)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導 / 鉄系はしご型超伝導体 / 軌道秩序 / ネマティックドメイン / 一軸歪み制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は一軸歪み下での局所磁化測定を可能とすることで、複合自由度に由来した超伝導状態における時間反転対称性の破れのを観測及びその制御を目指すものである。この到達目的を達成するうえで、2つの基幹技術の開発が必要となる。その第一ステップが一軸歪み技術の確立である。第二ステップである走査型磁気顕微鏡を用いた局所磁化測定系も、上記の一軸歪み制御技術開発と並行して進めており、試料に電流を印加した状態での磁気分布の兆候をつかみつつある段階にある。 特に今年度は一軸歪み技術開発に大きな進展があった。歪み技術開発の一環として圧力下で超伝導を示すはしご型鉄系超伝導体BaFe2S3について一軸歪みに対する電気抵抗の線形応答である、弾性抵抗測定を行った。BaFe2S3はそのはしご構造に由来した低次元物質であり、結晶がもろいという弱点があるものの、本研究では試料成型等を工夫することにより、弾性歪みの導入に成功している。弾性抵抗測定からは電子状態の異方的な揺らぎの検出に非常に有力であり、その結果、これまでその存在のみが示唆されていたものの起源が不明であったT*異常と呼ばれる200 K付近で起こる電子相転移近傍において、弾性抵抗率は極小構造を示すことを解明した。この振る舞いから、T*異常と呼ばれる未知の相転移の起源が軌道秩序状態の切り替わりを起源とするものであることを明らかにした。 さらに本研究で最終的に超伝導状態制御を目指すFeSeにおいてもピエゾ素子駆動源とする一軸歪みデバイスと、基板を介した歪み導入機構を組み合わせることによって、ネマティックドメインの制御に成功した。さらにドメインの有無や、ドメイン数などの歪みに対する振る舞いについても、電気抵抗率測定から定量的に見積もることにも成功した。これは輸送特性を利用してドメイン量をフィードバック制御できる可能性を拓くものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究において、一軸歪み制御デバイスおよび走査型磁気顕微鏡について、それぞれ独立に運用可能な段階まで進んでいる。その内、一軸歪み制御技術開発では、弾性抵抗測定を用いたはしご型鉄系超伝導体BaFe2S3における軌道スイッチング現象の解明し、これらの結果について、米国科学誌Physical Review Researchに出版されている。 また、鉄系超伝導体FeSeにおける一軸歪み制御により、ネマティックドメインを制御できること、およびドメインの振る舞いもX線回折のような結晶構造を直接観測する手法ではなくとも、電気抵抗率という輸送特性から定量的に評価することが可能であることが明らかになった。走査型磁気顕微鏡と組み合わせた際に、ドメイン量の変化を電気抵抗率を測定することでin-situで追随できることを意味しており、重要な結果であるといえる。これらの結果は米国科学誌Physical Review Xにすでに採録決定済みであり、近く出版される予定である。 走査型磁気顕微鏡開発についても試料に電流印加下での磁気分布を観測などを始めており、上記の一軸歪み下での電気抵抗率を用いたドメイン制御との組み合わせに向けてこちらも進展がある。本年度は一軸歪みデバイスと走査型磁気顕微鏡がそれぞれ独立に運用可能な段階まで進展したことを踏まえ、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
一軸歪み制御デバイスと走査型磁気顕微鏡技術は物性研究においても近年特に注目を集める技術であるといえる。これらの両者を組み合わせを目指す本研究が完遂した際には、先駆的な新しい物性制御デバイスとして、特に複合自由度を持つ量子液晶状態の研究をさらに発展させることができると期待される。 今後はそれぞれ独立に開発してきた、一軸歪み制御デバイスと走査型磁気顕微鏡を同時に搭載可能な1Kプローブ開発から着手し、歪み制御下走査型磁気顕微鏡システムの開発を進める予定である。比較的大型化することが予測される新システムは原理的に搭載可能な1Kプローブのプロトタイプ機はすでに稼働段階にある。それらの設計をベースに新システムに合わせた新プローブの開発を進めていく予定である。 FeSeのドメイン制御における一軸歪み制御の有用性が明らかにあり、超伝導とネマティックドメインの関係解明に非常に重要な手がかりを得ている。最近の研究では、FeSeのSe元素を等価数元素Sを置換したFeSe1-xSx系において、ネマティック量子臨界点を境に超伝導状態が変化している可能性も指摘されており、本研究が進展すれば母物質FeSeから対処を拡大して、新奇超伝導現象の解明を試みる予定である。
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Research Products
(12 results)
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[Presentation] 走査型磁気顕微鏡を用いた強トロイダル秩序候補物質UNi4Bのトロイダルドメイン構造の観察2021
Author(s)
宮本 大輝,室谷 拓海, 多田 勝哉, 細井 優, 下澤 雅明, 井澤 公一、仲村 愛, 本間 佳哉, 本多 史憲, 青木 大,小山大介, 河端美樹, 河合淳
Organizer
日本物理学会 第76回年次大会
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