2020 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamical response of pair liquid crystals with unconventional broken symmetries
Publicly Offered Research
Project Area | Physical Properties of Quantum Liquid Crystals |
Project/Area Number |
20H05163
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水島 健 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50379707)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ネマティック超伝導 / トポロジカル超伝導 / スピン輸送 / 中性子星 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、並進対称性の破れによる液晶秩序(FFLO 超伝導・3He)や回転対称性を破った液晶秩序(ネマティック超伝導・中性子星)を舞台として、『超伝導液晶秩序』に由来する多彩な ボース素励起を網羅的に調べ、物性や天体への影響を明らかにすることを目的としている。その過程で、常磁性磁化、トポロジカル準粒子、新奇な臨界現象、 さらに非可換量子渦というトポロジカル励起の4つの要素とボソン励起の相互作用を理解することで、 電子対液晶がもたらす新奇かつ普遍的な動的現象を探求する。初年度は、主に、以下の3点について研究を行なった。(1)中性子星におけるの対液晶状態およびそこに現れる非可換半整数量子渦の熱力学的安定性について、(2)ヘリカル超伝導体における熱・スピン輸送、(3)制限空間中の超流動3Heにおける並進対称性を自発的に破った対液晶状態について明らかにした。(1)について、中性子星内部には全角運動量J=2を持つCooper対が凝縮した3P2超流動が存在することがいくつかの観測により示唆されている。本年度は、この3P2超流動が広い温度および磁場領域において対液晶状態となること、それが磁性超流動相と競合することを明らかにした。その対液晶状態では非可換なトポロジカルチャージを持つ分数量子渦が熱力学的に安定になることを示し、さらにその渦芯に存在する零エネルギー準粒子が非可換エニオンとして振る舞うことを明らかにした。(2)については、超伝導の対称性やトポロジーを反映した逆スピンホール効果や異常スピンネルンスト効果などを明らかにした。また、(3)では平行平板中の超流動3Heにおいて、超流動秩序が1次元あるいは2次元的に液晶化した状態が存在し得ることを明らかにした。一連の結果は学会などで発表し、現在、論文として取りまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、各物理分野で個別に研究されてきたエキゾチック超伝導・超流動現象を当該研究領域が掲げる『量子液晶』という概念を用いて分野横断的に俯瞰することで、『超伝導液晶秩序』がもた らす普遍的な動的現象を抽出することである。初年度は、中性子星、トポロジカル超伝導、超流動3Heという3つの異なる分野において、超流動・超伝導状態における対液晶秩序状態の熱力学的な安定性や、その秩序に由来した新奇な熱・スピン輸送などを明らかにした。例えば、中性子星では現実的な温度や磁場領域において二軸性のネマティック超流動状態が熱力学的に存在することを明らかにした。さらに、天体内部が比較的高温の状況では磁性超流動相が安定することを見出した。とくにネマティック状態ではその液晶秩序の対称性に由来して、非可換なトポロジカルチャージを持つ分数量子渦が熱力学的に安定であることを示した。このことは、グリッチ現象などのような未解決の中性子星の動的現象の理解へ向けた大きな一歩となると考えられる。以上から、本研究計画は順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の成果として、中性子星、トポロジカル超伝導、超流動3Heという3つの異なる分野において、超流動・超伝導状態における対液晶秩序状態の熱力学的な安定性や、その秩序に由来した新奇な熱・スピン輸送などといった基礎物性が明らかとなった。引き続き、この3つの分野において、『超伝導液晶秩序』がもた らす普遍的な動的現象を探索する。具体的には、中性子星内部での熱輸送における『超伝導液晶秩序』の影響を調べる。超伝導・超流動状態における素励起にはBogoliubov準粒子とCooper対励起の2種類が存在する。前者が媒介する熱輸送についてすでに精力的に研究が進められているが、後者の役割については未だ明らかとなっていない。中性子星内部で存在すると期待されるネマティック超流動や、同様の性質を持ったネマティック超伝導体(CuドープされたBi2Se3など)において、Cooper対励起が媒介する熱輸送現象について調べていく。我々はすでにネマティック超伝導のCooper対励起について基礎的な知見は得ているので、スムーズに計画を遂行できると期待する。さらに、超伝導や超流動3Heにおける『超伝導液晶秩序』の観測に向けた理論提案を行う。例えば Fulide-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov超伝導は周期的に配列した常磁性磁化を伴うが、その集団励起を調べることで『超伝導液晶秩序』を反映した特徴的な磁気励起が存在することを明らかにする。また超流動3Heでは対液晶秩序の熱揺らぎを有効作用を用いて評価し、動的磁気応答に与える影響を明らかにする。これは、対液晶秩序形成の前駆現象として観測可能であると期待する。
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