2020 Fiscal Year Annual Research Report
特定温位面以下の寒気質量を通して見る黒潮・黒潮続流上の大気海洋相互作用
Publicly Offered Research
Project Area | Mid-latitude ocean-atmosphere interaction hotspots under the changing climate |
Project/Area Number |
20H05167
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
菅野 湧貴 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 主任研究員 (10826978)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 寒気流出 / 温位 / 大気海洋相互作用 / 黒潮 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬季の北極域に蓄積された寒気は間欠的に中緯度へ流出し、寒波をもたらす。寒気の量やその生成・流出・消滅量の指標として温位280 K面以下の寒気容量を用いることで、海洋上での寒気の消滅と関係する大気海洋相互作用を定量的に調査した。 気象庁の作成したJRA-55大気再解析データを用いて、寒気容量の消滅に寄与する非断熱プロセスの内訳を調べた。気候学的特徴として、北半球で積分した寒気容量の消滅量の57%が熱の鉛直拡散で、35%が水蒸気凝結などの湿潤過程で説明されることが分かった。海面の温位が280 K面以下の場所において、寒気内の熱の鉛直拡散量と海面から大気へ渡される顕熱は定量的に一致しており、海洋からの加熱が寒気の消滅の半分程度を説明することが明らかになった。また、各成分の1980年から2020年までの長期変化を解析したところ、統計的に有意な寒気容量の消滅量の減少傾向が見られたが、寒気容量の生成量の減少傾向はその3割程度であった。 寒気容量の消滅量と海面熱フラックスの関係を海域別に調査した。日本海やラブラドル海、グリーンランド海では寒気容量の消滅量と海面熱フラックスに線形関係が確認されたが、黒潮続流域では線形関係から外れて寒気容量の消滅量が小さいのにもかかわらず海面熱フラックスの大きい事例が多数確認された。寒気消滅量と海面熱フラックスの両者が大きい事例と、寒気容量の消滅量が小さく海面熱フラックスが大きい事例に分けてコンポジット解析を行ったところ、後者は低気圧中心が近いために地上風速が大きくなっており、それが海面熱フラックスを強めていることが明らかになった。この研究成果を地球惑星連合の2021年大会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和2年度に計画していた寒気消滅に寄与する非断熱プロセスの解明は、JRA-55再解析データのモデル面データを用いることで解析インクリメントの効果を新たに取り入れることができるようになり、計画よりも更に厳密な寒気の収支解析が可能となった。新たに取り入れた解析インクリメントの効果は収支の長期変化を解釈するのに重要であることが分かり、寒気消滅に寄与する非断熱プロセスの理解だけでなくJRA-55再解析データの特性についても調べることができた。 海洋の微細構造の解析は、JRA-55CHS再解析データの公開が遅れたためにデータの収集完了時期が遅れ、初期的な解析をするにとどまった。その代わりとして、令和3年度に予定していた海面熱フラックスと寒気の消滅量の関係についての解析を先行して進めた。海域間比較を進めたところ、本研究計画で最も重要な黒潮続流域は日本海やラブラドル海など他の海域と異なる傾向にあることを明らかにした。このように、当初の研究実施計画から一部変更がありながらも、当初の研究計画を発展させる形で研究を進めることができており、当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、令和2年度に実施した寒気消滅に寄与する非断熱プロセスの研究の論文執筆、および海洋微細構造が気団変質に与える影響の調査と寒気消滅と海洋の変化の定量的な理解である。 寒気消滅に寄与する非断熱プロセスの研究の論文を準備・投稿し、研究成果を広く周知できるようにする。また、国内・国際学会でもこの内容を積極的に発表する。 海洋微細構造が気団変質に与える影響について、データの収集が令和2年度内に完了しており、収集したデータの解析を進める。海洋微細構造の影響が大気に現れるのはどのような総観場なのかを明らかにする。そして、研究結果をまとめた論文を執筆する。 寒気消滅量と海洋の変化の定量的理解は、寒気消滅量と海面熱フラックスの対応については令和2年度に実施できているので、海洋内部の変化として海面水温や海洋混合層深さの変動との関係について解析を進める。令和2年度に実施済みの部分については令和3年度の早い段階から学会発表を行うことで、研究成果を広く周知する。また、令和3年度実施する内容についても学会発表を行い、論文を執筆する。
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Research Products
(3 results)