2020 Fiscal Year Annual Research Report
機能コアとして蛍光性カルボン酸を置換固溶した光機能性リン酸八カルシウム結晶の創製
Publicly Offered Research
Project Area | New Materials Science on Nanoscale Structures and Functions of Crystal Defect Cores |
Project/Area Number |
20H05181
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
横井 太史 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (00706781)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | リン酸八カルシウム / 置換固溶 / カルボン酸 / バイオイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
リン酸八カルシウム(OCP)は層状構造を持ち、その層間に存在するリン酸水素イオンを様々なカルボン酸イオンに置換できる特異な結晶学的性質を有する。この性質を利用すれば、OCP由来の生体適合性とカルボン酸由来の多様な機能を併せ持つ生体適合性機能材料を創製できると期待される。本研究では水溶液化学に立脚した湿式プロセスの高度化により、蛍光性芳香族カルボン酸類を機能コアとしてOCPに置換固溶した生体適合性に優れる蛍光バイオイメージング材料の創出を目指す。 本年度は1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸を導入したOCPの合成プロセスを検討した。従来から知られている、カルボン酸水溶液中において炭酸カルシウムとリン酸を反応させてカルボン酸含有OCPを得る合成方法では、当該カルボン酸のカルシウム塩が形成され、目的材料を得ることができなかった。そこで、カルボン酸のカルシウム塩の生成を抑制するために、反応溶液中のカルシウムイオン濃度を低減させる目的で、溶解度が小さいリン酸水素カルシウム二水和物を出発原料に用いた。その結果、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸を導入したOCPの単相合成に成功した。さらに、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸の安定分子構造と、これを層間に導入したOCPの層間距離の関係から、当該カルボン酸のパラ位のカルボキシ基が層間において主に結合に使用されていることを明らかにした。加えて、得られた試料の蛍光特性を調べた結果、310 nm程度の紫外光を吸収して450 nm程度の蛍光を発現することを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は、カルシウムイオンと反応して難溶性塩を形成するカルボン酸をOCPに導入するためのプロセスの確立である。 当初の研究計画では、難溶性塩の溶解度積を測定し、それに対して不飽和になるOCPの合成条件を選択することを検討していたが、コロナ禍による研究の制約のため、溶解度積の測定については実施できなかった。 そこで、難溶性塩の生成を回避するために、文献調査によって出発原料を3種類のリン酸カルシウム系化合物に絞り込み、それらを用いて1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸含有OCPの合成を試みた。その結果、リン酸水素カルシウム二水和物を用いた場合に、反応溶液中のカルボン酸濃度、pH、温度などの反応パラメータを適切に制御することで、当該OCPを単相で得られることを見出した。さらに、コロナ禍によりテレワークが推奨されたことから、在宅でもリモートで研究を進められるように、量子化学計算環境を構築し、OCPに導入されたカルボン酸の立体構造を推定できるようにした。これによって、OCPに導入された1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸のパラ位が主に結合に利用されていることを突き止めた。また、得られた当該OCPの蛍光特性を調べた結果、紫外線照射によって目視で十分に確認できるほどの強い青色発光を示すことが分かった。 以上のように、当初の研究計画内容の一部が実施できなかったものの、今年度の達成目標であった難溶性塩を形成するカルボン酸をOCPに導入するためのプロセスを確立できたことから、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、蛍光特性の向上を目指し、合成条件の最適化を進める。具体的には、反応溶液中のカルボン酸濃度、pH、温度などを反応パラメータとする。しかしながら、これまでの研究の結果から、1,2,4,5,-ベンゼンテトラカルボン酸含有OCPが単相で得られるプロセスウィンドウはそれほど広くないことが分かっている。そのため、合成条件による蛍光特性の向上が望めない可能性があることを勘案し、当初計画では、蛍光性分子として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸のみを考えていたが、これ以外の蛍光性カルボン酸についてもこれらを導入したOCPの合成ならびに蛍光特性の検討を同時に進める。具体的な蛍光性カルボン酸としてはイソフタル酸、1,4-フェニレン二酢酸、4-(カルボキシメチル)安息香酸、およびピリジンジカルボン酸類を用いる。 合成した蛍光性カルボン酸含有OCPの結晶相、化学構造、およびカルボン酸含有量をX線回折分析、赤外分光分析、誘導結合プラズマ発光分光分析、固体核磁気共鳴分光分析、熱重量分析等により評価する。また、結晶中に導入されたカルボン酸の立体構造を、量子化学計算結果と層間距離の関係から推定する。さらに、蛍光分光光度計により蛍光特性を評価し、試料の結晶構造・化学構造・組成と蛍光特性の関係を明らかにする。得られた結果を総括し、蛍光バイオイメージング用の生体適合性に優れる光機能性OCPの設計と合成の指針を明らかにする。
|
Research Products
(6 results)