2020 Fiscal Year Annual Research Report
レシオ型の蛍光変化を示す超分子メカノフォアの創製と水圏機能材料への応用
Publicly Offered Research
Project Area | Aquatic Functional Materials: Creation of New Materials Science for Environment-Friendly and Active Functions |
Project/Area Number |
20H05198
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
相良 剛光 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (60767292)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メカノフォア / 超分子 / シクロファン / エキシマ- / ヒドロゲル / 刺激応答性発光材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、機械的刺激を受けて様々なアウトプットを示す「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が盛んに研究されている。しかし従来のメカノフォアは吸収・蛍光特性の変化を誘起するために共有結合の切断が必要となり、弱い分子間相互作用が重要な役割を果たす水圏機能材料に印加されるor生み出す力を評価するには不向きである。そこで本申請研究では、シクロファンの環状構造を積極活用した「シクロファン型超分子メカノフォア」を創製する。得られた超分子メカノフォアは機械的刺激により共有結合を切断することなくレシオメトリックな蛍光色変化を示す。さらに、このメカノフォアをヒドロゲルに導入することにより、機械的刺激や、温度、溶媒への浸漬によって誘起されるゲルの膨潤⇔収縮に伴い蛍光色が鮮やかに変化する水圏機能材料を創製することを目指す。 初年度はエキシマ-蛍光を示す蛍光団を二つ環状構造に導入したシクロファン型超分子メカノフォアの概念実証をポリウレタンをホストポリマーとして用いて行った。作製した超分子メカノフォアは溶液中ではエキシマ-蛍光支配的、ポリウレタン中ではモノマー発光が支配的となる蛍光特性を示した。さらに、得られた超分子メカノフォアを導入したポリウレタンを製膜することで得られるフィルムを延伸するとエキシマ-蛍光成分が減少し、蛍光色が変化することが明らかとなった。さらに力を除くと元の蛍光特性が回復し、良好な可逆性があることが明らかとなった。 今後は今回概念実証に成功した「レシオメトリックな蛍光色変化を示すシクロファン型超分子メカノフォア」をハイドロゲルに導入し、外部刺激に応じて蛍光色を変化する水圏機能材料となるかを精査する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度はシクロファン型超分子メカノフォアの動作機構を概念実証することができた。シクロファンの合成はステップ数が多く、最終化合物に収率良く至る合成ルートの策定に難航したが、無事合成ルートを確立することができた。 プロトタイプのシクロファン型超分子メカノフォアは蛍光団として1,6-bis(phenylethynyl)pyrene骨格を二つ持ち、それらがトリエチレングリコール鎖で連結された構造を持っている。さらにポリマーを導入するための水酸基が各蛍光団に一つづつ導入されている。溶液中では分子内エキシマ-形成に起因する蛍光色が観察され、モノマー蛍光は大きく抑えられることが明らかとなった。その一方で、重付加反応によりポリウレタン主鎖に導入して製膜したフィルムからはモノマー傾向が強く観察されることが明らかとなった。これはポリマー中では蛍光団がモノマー状態で存在する割合が大きく増えてしまったことに起因している。その一方で、得られたフィルムを延伸するとエキシマ-の蛍光強度がさらに減少し、蛍光色変化が観察されることが分かった。フィルムをもとの状態に戻すと、元の蛍光色が回復することも明らかとなった。この蛍光色変化は何回でも繰り返し行うことができ、良好な可逆性があることも明らかとなった。さらに、得られたフィルムが示す蛍光寿命も延伸の前後で可逆的に変化することも示された。また、蛍光団を変更しても同じ動作機構が機能することも明らかとなっており、本概念の普遍性までもが確認された。 このように初年度において、当初目指していた動作機構の実証が達成されたことから、進捗状況を「当初の計画以上に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度において、シクロファン型超分子メカノフォアの動作機構が実証されたので、次年度は疎水性の高いポリウレタンではなく、豊富に水分子を含有しているハイドロゲルへの導入を行う。これにより当初の研究目的であった、外部刺激に応答して発光色が変化する水圏機能材料が創製されるはずである。 現状の分子骨格では、蛍光団として疎水性の高い分子骨格を用いているため、水分子が多く存在している環境下では、π共役部位の会合定数が大幅に上昇することが期待でき、ポリウレタン中と異なりより大きな蛍光色変化が期待できる。その一方で、現状のシクロファン型超分子の分子骨格では疎水性が高いため、ヒドロゲルを調整する際に凝集する可能性がある。そのため、まず水溶性の高い分子構造をシクロファン骨格に導入する合成スキームを確立する必要がある。いったん水溶性の高いシクロファン型超分子メカノフォアを合成することができれば、既に様々な報告例があるナノコンコンポジットゲル(NCゲル)の合成法に従い、強靭なヒドロゲルを作製する。ここでは、シクロファン型超分子メカノフォアをクロスリンカーとして用いるため、モノマーとの混合比も条件を変えて最適化する必要がある。 最終的に各種条件を最適化して得られたヒドロゲルに対し、外部より引張や押しつぶすなどの機械的刺激、並びに各種溶媒による膨潤試験を行い、誘起される蛍光特性変化を小型蛍光計などを用いて精査する予定である。また、領域内で始まった共同研究棟も随時進展させる予定である。
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