2020 Fiscal Year Annual Research Report
超空間デザイン無機結晶の固液界面でのイオン交換挙動の理解と応用
Publicly Offered Research
Project Area | Aquatic Functional Materials: Creation of New Materials Science for Environment-Friendly and Active Functions |
Project/Area Number |
20H05214
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
手嶋 勝弥 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00402131)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フラックス法 / 表界面・層間制御 / 結晶成長 / 元素置換 / 吸着・イオン交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は次の2つの課題「(1)結晶/水の異相(固液)界面でのイオンや水分子の動的挙動観察・分析,イオン交換メカニズムの解明,ならびに超高性能を実現する無機イオン交換体のマテリアルデザイン」および「(2)最適化した無機イオン交換体結晶のフラックス創製と最適化による超高性能の実現」から成る。特に本年度は課題(1)に注力した。 課題(1)の具体的内容である①ベースマテリアルの水中挙動の理解では,MgAl系・NiFe系・NiCo系層状複水酸化物結晶(LDH)に主眼を置き,ホスト層を構成する二価と三価の金属イオンの配列を制御することで,層間陰イオンの交換反応との相関性を評価した。特に,配列の長周期構造をシンクロトロン光XRD測定等にて評価し,二価/三価金属イオン比と層間距離に相関性があることを見いだした。また,局所構造をXAFS測定にて評価し,二価金属イオン周りの原子配列の対称性に影響を及ぼす因子を見いだした。これにより,固液界面のイオン交換挙動を制御できる可能性を得た。さらに,水晶振動子マイクロバランス法を活用し,LDHの水中挙動をその場観察した。特に,水中での陰イオン交換反応に伴うLDHの重量と粘弾性変化を計測した。その結果,層間電荷密度が低い場合,層間水の増加を抑制でき,層間内の硝酸イオンの相互作用が強まり,吸着率が増加することがわかった。 また,②計算科学・シミュレーション技術を活用した異相界面での水/イオン挙動の理解では,水酸基の原子配列を制御したLDHにて,硝酸イオン交換性能との相関性を評価した。特に,LDHホスト層の三価金属イオンの配置が陰イオン間の相互作用に影響を及ぼすと仮定し,計算・シミュレーションに取り組んだ。三角格子のイジング模型を用い,イオン交換反応モデルを独自構築し,反応過程における熱力学的安定性を評価するための端緒を掴んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究において,①ベースマテリアルの水中挙動の理解では,各種先端計測技術(例えば,放射光XRD計測やXAFSなど)を活用し,LDHの長周期構造や局所構造の解析に着手するとともに,その理解の深度が大幅に進んだ。また,水晶振動子マイクロバランス法を研究室に整備し,LDHの水中挙動のその場観察を実現する環境を整えた。その結果,イオン交換時の超微細重量変化や粘弾性変化をその場計測でき,LDH層間電荷密度と陰イオン交換反応の相関性を理解することに成功した。 さらに,②計算科学・シミュレーション技術を活用した異相界面での水/イオン挙動の理解では,一般的に多用されるLangmuirモデルに代わるモデルとして,混合の熱力学から考える三角格子のイジング模型を提案できた。また,DFT計算を導入し,三角格子の配列パターンを抽出し,構造最適化のエネルギーを計算できた。 このように,①と②において,新しい実験・計算・シミュレーション技術を導入でき,LDH異相界面研究に欠かすことができない環境を整え,新しい基礎的知見を獲得できた。なお,水圏機能材料として,他の研究班に貢献できる体制を構築できた。翌年度の研究に繋げるための事前研究にも着手できている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究期間の最終目的は,浄水デバイス用無機イオン交換体に関し,水中異相界面挙動を適切に理解することである。これにより,バツグンの性能を実現する結晶構造をデザインでき,申請者の得意技術であるフラックス法により新しい水圏機能材料を創製できると期待する。期間を超えた目的のひとつは,アフリカ諸国などの貧困地域や我が国でも頻発する各種災害時などに活用できる「無電源・環境調和型浄水デバイス」用無機イオン交換体結晶を社会に提供することである。そのため,各種最先端・精密解析技術や計算・シミュレーション技術を積極的に導入し,経験に頼る無機マテリアルデザインを脱却する。 特に,第2年度に注力するベースマテリアル層間の原子配列制御と水溶液中でのイオン交換・吸脱着挙動の解析,ならびに,イオン交換・吸脱着挙動へのベースマテリアルの表界面処理や晶相・晶癖制御の影響評価を実施することで,バツグン性能(高選択性・高容量・高速移動)を実現する結晶構造を系統的に導出できると確信する。 その結果,LDHの層間を自在制御する多視点アプローチにより,層間陰イオンの高選択・高容量・高速移動可能な吸着除去材料を創製でき,世界各地で頻発するSDGs課題解決(特に水問題・エネルギー問題)に資する無機マテリアルを提案可能となる。
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Research Products
(6 results)