2020 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質による水分子の配位状態制御
Publicly Offered Research
Project Area | Aquatic Functional Materials: Creation of New Materials Science for Environment-Friendly and Active Functions |
Project/Area Number |
20H05220
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹田 一旗 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30332290)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タンパク質 / 内部結合水 / 電荷密度解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
水分子はタンパク質の表面のみならず内部にも結合し、タンパク質の機能発現において重要な働きを担っている。タンパク質内部では、水分子は極性基との間で水素結合を形成しているが、配位相手が必ずしも正確に正四面体構造をとっているわけではない。本研究では、水素原子や価電子を可視化して精密な構造および性質を決定することが可能な超高分解能電荷密度解析によりタンパク質内部結合水の学理解明をおこない、水分子の状態を人為的に制御する方法の確立をめざしている。2020年度は、緑色蛍光タンパク質(GFP)についてのX線・中性子線データの同時解析、量子化学計算による検証、および変異体作製とその性質の測定をおこなった。また、バクテリオロドプシン(bR)のK中間体の構造解析を高分解能でおこなった。これらの成果から、タンパク質内部結合水の配位様式と構造の詳細を解明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緑色蛍光タンパク質(GFP)のX線・中性子線データの同時解析をおこない、GFPの表面や内部に結合している多数の水分子について水素原子の位置を精密化した。その結果、タンパク質の内部や表面に結合している水分子の分子配向を決定することができた。さらには、発色団近傍の水素原子に関して原子核の位置と電子分布を個別に決定することで、水素原子の分極状態に関する情報を得ることができた。また、構造解析で決定した原子核の座標をもとに量子化学計算をおこない、A型とB型の解離状態についてのポテンシャルエネルギー曲面を計算した。さらにはI型の発色団を有する変異型GFPを2種類作製して精製することができた。それぞれの変異体について吸収および蛍光スペクトルをpH5から8.5の範囲で測定して滴定曲線を作成した。現在、高分解能での構造解析をめざして結晶化条件の検討をおこなっている。光駆動ポンプ・バクテリオロドプシン(bR)のK中間体について、~1.3 Åで解析することに成功した。原子を個別に解像することができる精度の高い構造情報を得ることができた。活性部位であるシッフ塩基に結合した水分子は、基底状態では正四面体配位から大きく外れた配位様式を持っていたが、K中間体では正四面体配位に近い配位様式となっていた。これはレチナールの光異性化に伴って水素結合が弱くなったためであると考えられ、プロトンの移動反応にも重要な働きを果たしていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質内部結合水の学理解明と水分子の状態を人為的に制御する方法の確立をめざすために、変異型の緑色蛍光タンパク質(GFP)や光駆動プロトンポンプの大型かつ良質の結晶を作製し、放射光施設にて高分解能(dmin < 1 Å)のX線回折データを測定する。X線による損傷を抑制するために、ヘリウム気流によって結晶を極低温(~15 K)に冷却して回折実験を実施する。測定したX線回折データについて多極子精密化を実施し、精密な価電子分布と原子電荷を決定する。得られた結果から、内部結合水の配位状態と構造との相関について考察する。また、分子動力学計算や量子化学計算といった計算科学的手法を駆使して、X線電荷密度解析の妥当性の検証と解釈をおこなう。本研究に使用するタンパク質では光照射による励起状態プロトン移動反応が報告されている。そこで、今回の知見に基づき、水分子の構造や解離状態が光照射により変化するような例を新たに見出し、水分子の制御方法として確立させる
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