2020 Fiscal Year Annual Research Report
整合・不整合多重周期をもつ第13族元素ハイパーマテリアルの構造秩序
Publicly Offered Research
Project Area | Hypermaterials: Inovation of materials scinece in hyper space |
Project/Area Number |
20H05258
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
湯葢 邦夫 九州大学, 工学研究院, 学術研究員 (00302208)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 結晶構造解析 / 相安定性 / 短・中距離秩序構造 / 散漫散乱 / 熱電変換特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
複雑な結晶構造をもつ第13族元素(B, Al, Ga, In)化合物をターゲットにして,特定元素周囲の局所構造の精密決定(極局所構造解析)から広範囲にわたる原子集団のゆらぎの特徴抽出まで,連続的にスケールアップした先端的構造解析法を駆使した.電子顕微鏡を駆使した原子分解能元素マッピングをベースとした極局所構造解析法,放射光を利用したX線異常散乱(Anomalous X-ray Scattering : AXS)法とReverse Monte Carlo(RMC)シミュレーションをドッキングしたAXS-RMC法を協働的に併用して,第13族元素化合物に存在する化学的短距離秩序構造(Chemical Short Range Ordering : CSRO)とそれらCSROの連結様式(中距離秩序構造 (Medium Range Ordering: MRO))に新しい構造秩序を見出し,構造ユニットの連結様式の多様性と形成機構を3次元定量的に解明した. 巨大ひずみ加工(冷間加工およびhigh pressure torsion)によって,スクッテルダイト化合物((Sm,Mm)0.15Co4Sb12)の熱電変換特性の大幅な改善に成功した.格子欠陥の導入によって,バルク材では達成できなかったサブミクロンからナノスケールにわたる特異な微細組織を形成し,特に格子熱伝導率の低減を実現させた.熱電変換性能指数 ZT = 2.1 を示すスクッテルダイト材料へのせん断歪みの影響を明らかにした. Cu3Au 型-アンチペロブスカイト型構造を持つScRh3B0.6 化合物に現れる{111}* 方向にシャープな散漫散乱の三次元可視化に成功した.実空間情報(原子配列)とのコンビネーションから,この化合物群におけるMROについての理解が進んだ.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の推進に向けて,既に希土類-金属(主に遷移金属)-ホウ化物系で,広範囲にわたる化合物探索を継続中であり,ガンドルフィーX線回折解析と組織観察の結果をもとにして,ターゲットとなる系の候補の絞り込みを進めている.微結晶結晶の相同定に,ガンドルフィーX線回折法が極めて有効なことを実証した. 非整合変調構造をもつ層状 Co 酸化物に対して,(3+1) 次元超空間群を用いて,粉末中性子回折構造解析を行った.解析結果は,構成原子が単斜晶 a-軸方向に著しく変調して,規則構造をもつことを示した構成原子の変位変調は,CoO2 層(変調していない)間にある多面体中心位置からの構成原子の準周期性を引き起こしていることを明らかにした.また,球面収差補正 STEM 観察から,原子配列と元素分布状態を同時に測定し,原子配列の局所的なゆらぎ(変調構造や構造不整)を直接観察に成功している.同時所得する ABF (環状明視野)- と HAADF (高角環状暗視野)-STEM像と EELS 分析測定の併用から,価数揺動についての考察も進めている. 金属間化合物系の熱電変換材料の構造解析を行っている.熱電変換特性の向上の方法の一つとして熱伝導率の低減が挙げられる.通常の3次元周期構造に,多様な連結様式から導かれる整合・不整合な新規周期を付与させることで,格子・原子配列の乱れを導入し,格子熱伝導率をコントロールすることを目指している. 短・中距離秩序構造研究の更なる展開を目指して,国内外(国内3機関:海外2機関)の研究者との共同研究を強力に推進しており,興味深い成果が得られている.
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画に則り,アーク溶解による多結晶合成とフラックス育成による単結晶育成を並行して実施し,化合物合成を進める.原子サイズ,価電 子濃度,電気陰性度,混合エンタルピーなどに着目にして設計する.得られた特異な物性の要因解明のために,元素置換を効果的に実施する. 溶融金属フラックス法で育成した希土類-金属(主に遷移金属)-ホウ化物単結晶のX線回折構造解析を進める.これまでに報告されていない結晶構造をもつ相をいくつか発見しているので,原子間距離など結晶化学的な考察を深める予定である.2020年度は,La~Sm までの軽希土類元素を含む化合物を中心とした構造解析がメインだったので,今後は,重希土類元素化合物にも取り組む予定である. これまでに測定している短・中距離秩序由来の散漫散乱の定量構造解析を行う.RMC シミュレーションをベースにして,原子配列の変位および化学 disorder に着目して,構造解析を進める. 実空間における局所構造解析として,原子分解能HAADF-STEM像に対して,「原子変位解析」を行い,化合物における「原子配列のゆらぎ」について知見を得て,相安定性について考察を進める.原子分解能元素マッピング法とAXS-RMC法を併用することで,短・中距離秩序構造を明らかにし,原子配列レベルでの非化学量論性に関する理解が一層深まる. 2020年度の研究成果である金属間化合物の熱電変換特性のような新たな物性獲得のために,国内外の共同研究者および新学術計画班公募班との連携をより一層強力に行う.
|