2020 Fiscal Year Annual Research Report
2次元ファンデルワールスハイパーマテリアルの創出と電荷輸送・光物性開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Hypermaterials: Inovation of materials scinece in hyper space |
Project/Area Number |
20H05264
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井手上 敏也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90757014)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ファンデルワールス結晶 / ハイパーマテリアル / ツイストロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
2次元ファンデルワールス結晶2枚をはり合わせてできる、準周期的二次元構造(ファンデルワールスハイパーマテリアル)の特徴的光電荷物性の開拓に取り組んだ。特に、結晶構造の異なる2つのファンデルワールス結晶の界面に着目し、3回対称性を持つ2次元半導体であるWSe2と2回対称性を持つ2次元半導体である黒リンのヘテロ界面において、極性構造とそれを反映したバルク光起電力効果が生じることを明らかにした。 一般に、3回回転対称操作と2回回転対称操作は両立しないため、3回対称性と2回対称性を持つ結晶を重ねてできる界面では、回転対称性が消失するが、両物質の鏡像面が一致するようにはり合わせることで、鏡像対称性を残すことができる。そのような界面では、鏡像面の向きに極性構造や分極を反映した種々の物性の発現が期待される。 実際に、WSe2と黒リンの鏡像面を平行になるように重ねた界面において、光を照射した際に、鏡像面と平行な方向にのみ分極を反映したバルク光起電力効果が生じ、それと垂直な方向にはバルク光起電力効果は生じないことを発見した。 また、理論グループとの共同研究を積極的に行うことで、並進対称性を持たない準周期的2次元界面における電子状態や分極、バルク光起電力効果の計算方法を確立し、WSe2と黒リンの界面において有限の分極やそれを反映した光起電力効果が生じることを理論的にも明らかにすると同時に、実験で観測されたバルク光起電力効果の照射光エネルギーを上手く説明できることを明らかにした。 以上の結果は、準周期的な構造を持つ2次元系においても、結晶で議論されてきたような電気分極といったものを考えることができ、それに起因する物性が発現することを初めて見出した成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで、2次元ファンデルワールス結晶2枚をはり合わせてできる、準周期的二次元構造(ファンデルワールスハイパーマテリアル)としては、類似の結晶構造を持つ2次元物質を合わせてできるナノ構造が精力的に研究されてきた。30度捻り角度をつけて積層させたグラフェンや微小角度ツイスト積層させたグラフェンおよび遷移金属ダイカルコゲナイドが代表例であるが、そのような準周期的二次元界面では、12回対称性を持つ準結晶的構造やモアレ構造とそこでの軌道角運動量の物理(バレー自由度や軌道磁性)といった、回転対称性に起因した物性に主要な興味が集まっていた。 本研究では、それらとは視点を変えて、異なる回転対称性を持つ結晶を組み合わせた準周期的界面の鏡像対称性に着目することで、並進対称性が破れた2次元系においても、周期性を持つ結晶で議論されてきたような電気分極といったものを考えることができ、それに起因するバルク光起電力効果のような物性が発現することを初めて見出した成果である。準周期的2次元系において、従来考えられてこなかった、分極のような概念を開拓することで、ハイパーマテリアルの新しい側面や可能性を見出したと言える。さらに、見出した準周期的2次元界面における対称性制御の原理は、今後、半導体だけでなく、金属や磁性体を含む様々なファンデルワールスハイパーマテリアルに適応可能であると期待でき、この分野の重要な設計指針、原理を示した点で大きな意義があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、半導体や金属、磁性体を含む様々なファンデルワールスハイパーマテリアルを対称性制御の観点から包括的に研究し、統一的概念や手法、学理の構築を目指す。 前年度における準周期的半導体界面の結果をさらに発展させ、対称性制御の手法が他の半導体2次元結晶の組み合わせでも有効であることを実証すると同時に、現象のより詳細な理解に向けた研究を推進する。例えば、WSe2と類似のMoS2と黒リンの組み合わせにおいて、同様の現象が生じるかどうか、WSe2と黒リン界面との相違点があるか等を検証する。また、光起電力効果だけでなく、第二次高調波発生(SHG)といった他の手法によって、準周期的2次元ファンデルワールス結晶界面の特徴的対称性を反映した応答の観測を試みる。特に、積層角度の自由度に着目し、両物質の鏡像面を揃える積層の仕方(0度積層)から積層角度を変化させた時に、極性やキラリティーといった構造がどのように変化するかを、理論グループとの共同研究も推進することにより調べる。 さらに、対象物質を2次元半導体から2次元半金属や2次元超伝導体、2次元磁性体といった物質にまで広げ、ファンデルワールスハイパーマテリアルのバリエーションを増やすと同時に、それらの準周期的界面における特徴的輸送現象の開拓を行う。特に、上述した準周期的2次元界面における対称性制御の手法が、超伝導輸送や磁気輸送に与える影響を詳細に調べる。
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[Journal Article] A van der Waals interface that creats in-plane polarization and a spontaneous photovoltaic effect2021
Author(s)
T. Akamatsu, T. Ideue, L. Zhou, Y. Dong, S. Kitamura, M. Yoshii, D. Yang, M. Onga, Y. Nakagawa, K. Watanabe, T. Taniguchi, J. Laurienzo, J. Huang, Z. Ye, T. Morimoto, H. Yuan, and Y. Iwasa
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Journal Title
Science
Volume: 372
Pages: 68-72
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] Anomalous photocurrent response in van der Waals heterointerface2021
Author(s)
Toshiya Ideue, Takatoshi Akamatsu, Ling Zhou, Sota Kitamura, Masaru Onga, Yuji Nakagawa, Joseph Laurienzo, Junwei Huang, Takahiro Morimoto, Hontao Yuan, Yoshihiro Iwasa
Organizer
American Physical Society March Meeting 2021
Int'l Joint Research
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[Presentation] ファンデルワールスヘテロ界面におけるバルク光起電力効果2021
Author(s)
井手上敏也, 赤松孝俊, Zhou Ling, Yu Dong, 北村想太, 吉井真央, Dongyang Yang, 恩河大, 中川裕治, 渡邉賢司, 谷口尚, Joseph Laurienzo, Junwei Huang, Ziliang Ye, 森本高裕, Hongtao Yuan, 岩佐義宏
Organizer
第68回 応用物理学会 春季学術講演会
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[Presentation] ファンデルワールスヘテロ界面におけるバルク光起電力効果の積層角度依存性2020
Author(s)
井手上敏也, 赤松孝俊, Zhou Ling, 北村想太, 恩河大, 中川裕治, Joseph Laurienzo, Junwei Huang, 森本高裕, Hongtao Yuan, 岩佐義宏
Organizer
日本物理学会 2020年秋季大会
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