2020 Fiscal Year Annual Research Report
Hyper vortex matter
Publicly Offered Research
Project Area | Hypermaterials: Inovation of materials scinece in hyper space |
Project/Area Number |
20H05266
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大熊 哲 東京工業大学, 理学院, 教授 (50194105)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 渦糸 / ハイパーユニフォーム / 可逆不可逆転移 / アモルファス膜 / 2次元多粒子系 / 準結晶 / 非平衡相転移 / 走査トンネル分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導体中の渦糸は互いに反発する理想的2次元粒子系とみなせる。乱れた初期配置で交流駆動させると, 衝突を繰り返し徐々に秩序化する。終状態は, 振幅が小さいときは衝突がまったく起こらない可逆フロー, 振幅が臨界値を越えると衝突が起こる不可逆フローへと動的相転移する。本研究ではこの可逆不可逆転移(RIT)点で予想される短距離で液体的, 長距離で固体的となるハイパーユニフォーム構造を初めて実証すると共に, 渦間相互作用が距離に対し非単調な超伝導体を用い, 非熱的な動的手法を利用することにより, 単一粒子からなる2次元準結晶の初の創成を目指した。ところで, これまでRITは粒子間の衝突による構造変化の観点のみから議論されてきたが, 最近, 系のエネルギー変化による構造変化の観点から理解できる可能性が理論的に提案された。それによると2次元の N個の粒子からなる多粒子系の配置構造は, 2N個の座標の関数として表されるポテンシャルエネルギー地形(PEL)によって決まる。このPELモデルは古くから結晶-ガラス転移などの熱的構造変化の記述で用いられてきた。これを渦糸系の動的秩序化に適用すると, 定常状態において系が各サイクル後にPEL上の定点にあるならば可逆状態, 異なる点に移るなら不可逆状態に対応する。 そこでR2年度は, 渦糸の速度域を変化させ, 系に導入するエネルギーを大きく変えたRITの実験を行った。試料は局所的せん断力をもたらす, ランダムなピン止めサイトをもつアモルファスMoxGe1-x 膜である。その結果, 速度域を大きく下げてピン止め効果を増大させると, 可逆相が増大することを見出した。さらに, 可逆相と不可逆相を分けるエネルギーの臨界値も低速域で増大した。これらはピン止め力の効果を考慮した衝突モデル, およびPELモデルによってコンシステントに説明できることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子動力学に基づく衝突モデルだけでなく, ポテンシャルエネルギー地形(PEL)モデルによっても可逆不可逆転移(RIT)を記述できるかどうかは, 興味ある基本的重要問題である。これは準結晶の創成という本研究の目的と直接つながるものではないが, 本研究によってその実験的検証ができれば, 準結晶研究の枠を超えたより大きな物理的意義をもつ。準結晶を含む様々な結晶試料作製の場面においては, 熱的手法が最も一般的な作製プロセスと考えられる。しかし, もし外力による非熱的な機械的動的手法とPELモデルを用いた解釈が試料作製に適用できることになれば, 試料作製研究に新たな視座が導入される可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のテーマに掲げた, 可逆不可逆転移(RIT)点で予想されるハイパーユニフォーム構造を実証するため, 走査トンネル分光と輸送測定を同時に実現できる, 極低温高磁場走査トンネル顕微鏡を完成させる。特に本研究では, ハイパーユニフォーム構造を議論するため, 多数の渦糸を含む広視野での観察が求められる。このための装置の改良を行い, 交流駆動力印加後の定常状態における凍結渦糸像を駆動振幅の関数として求め, RIT前後での渦糸配置の秩序度の変化を観測する。従来型超伝導であるアモルファスMoxGe1-x 膜, および渦糸間相互作用が距離に対し非単調な多バンド超伝導体を用い, RIT点で予想されるハイパーユニフォーム構造を比較する。準結晶構造が期待される後者の超伝導体において, ハイパーユニフォーム構造のサブクラスである準結晶が出現するかどうかを注視する。 一方, 2019年に我々が見出した可逆相内の2つの定常状態(相)の起源を明らかにする。1つは駆動振幅dが平均渦糸間距離a以下で現れる衝突が起こらない可逆フロー状態, もう1つはd > aで現れる衝突が起こる可逆フロー状態に相当すると考えられる。その直後の2020年に報告された理論によると, これらの状態はそれぞれ, ポイントリバーサル状態とループリバーサル状態と名づけられた。ただし, これらの状態が非平衡相転移を伴うか, 伴う場合はその臨界点や臨界現象がいかなるものかは理論的には言及されていない。この問題は固体の降伏現象など, 自然界に遍在する運動による秩序化や無秩序化を理解する上での新しい学理に迫るものであり, その解明は重要である。そこで本研究では, 定常状態に至る緩和時間を駆動振幅の関数として測定し, 2つの可逆状態の臨界点および臨界現象を明らかにする。
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