2020 Fiscal Year Annual Research Report
強相関準・近似結晶の偏光制御光電子分光による電子物性における軌道対称性の役割
Publicly Offered Research
Project Area | Hypermaterials: Inovation of materials scinece in hyper space |
Project/Area Number |
20H05271
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
関山 明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40294160)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 近似結晶 / 希土類化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、準結晶・近似結晶における物質開発は希土類元素を含んだ系でもYb系準結晶における超伝導の発見、Tb系準結晶での強磁性など大きな発展があり、注目を集めている。この中でCeを含んだ準結晶の数は少ないなか、Ce-Au-Ga系で近似結晶が合成され、組成比の違い(ここでは仮にa, bとする)によってCe 4f電子に起因すると考えるのが適切なWeiss温度が変化し、aにおいては一定程度の遍歴性の可能性が指摘されていた。これをうけ本研究ではCe-Au-Ga系近似結晶に対してバルク敏感な硬X線光電子分光を行い、Ce 3d内殻光電子スペクトルから4f電子状態を研究した。組成a, bで内殻光電子スペクトルに差異は見られないばかりか、両者とも4f電子状態が極めて局在的という結果を得た。これは、結晶で重い電子系または強相関電子系かつ4f電子構造が局在的で低温で磁性秩序を有するCeRu2Ge2と比較しても混成が弱く局在的といえる。我々の結果はこの近似結晶中4f電子における極めて高い局在性を示し、いわゆるRKKY相互作用も非常に弱く、a, bにおけるWeiss温度の違いは重い電子系における量子臨界点よりもかけ離れて弱いところでの変化と考えられる。 さらに我々は組成a, bにおける電子状態変化を探索すべく励起エネルギーが8.4 eVと低い極低エネルギー光電子分光を分解能10 meVの高分解能で測定した。準結晶においてはこれまで光電子分光でフェルミ準位ごく近傍におけるスペクトル強度の抑制(これを「擬ギャップ」とも呼んでいる、但しフェルミ端そのものは明確に見えることも多い)が報告されているがCe-Au-Ga系においてもわずか(直線的な外挿から10-20%程度の減少)であるが擬ギャップ的な状態が観測された。またそのエネルギースケールはa, bで異なり、両者間の電子状態変化を観測することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
COVID-19による人的交流の減少に伴い研究開始が若干遅れたもののCe系近似結晶の局所的な電子構造が実験的にかなり明確になるところまで研究が進展し、これを引き続き進めていくことで十分な成果が期待できる。また、2020年度より本研究に本格的に参画した研究協力者の大学院生が精力的に研究に取り組み、かつ博士後期課程への進学意向も固めていることから今後も途切れることなく研究を進める目処が2020年度のうちにたったと判断できるので、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
Ce-Au-Ga系近似結晶(組成a, b)の内殻光電子分光で一点のみ確認が必要なこととして「Ce 3d内殻光電子ピーク幅の異常な広さ」がある。これはこれまでの重い電子系Ce化合物のそれと比較しても顕著に広い。一方で2020年度の実験においてはまず結果を出すために硬X線光電子分光のエネルギー分解能は600 meVと広くとっていたため、観測されたピーク幅の広さが実験条件に起因する可能性は低いもののゼロではない。これを明確にするために今後、よりエネルギー高分解能で内殻光電子スペクトルを測定し、ピーク幅の広さが本質的な現象と言えるのかを実験的に検証する。これが本質的としてもその原因は現時点では明確ではない。あるいは並進対称性があると言えども近似結晶ということで準結晶の本質的な性質が反映された結果だとすれば極めて重要な知見になるが、そこは若干慎重を期して進めていきたい。 極低エネルギー光電子分光ではフェルミ準位近傍における擬ギャップ構造に組成による変化が見出された。但し、これと組成およびモデル的な電子構造との関係が現時点では明確ではない。今後は、ここを明確にしていくことでCe-Au-Ga系近似結晶の本質的な電子構造について新たな知見が得られるものと思われる。
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