2020 Fiscal Year Annual Research Report
固体イオニクス現象を利用する物性制御デバイスの開発と動作機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Interfacial Ion Dynamics for Solid State Ionics Devices |
Project/Area Number |
20H05301
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
土屋 敬志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (70756387)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 固体イオニクス / 酸化還元反応 / 電気二重層 / 磁気異方性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,電子材料(電極)/固体電解質界面近傍における電気二重層効果と酸化還元反応,及びそれらの共存・相互作用の結果として生じる電荷キャリアー(イオン・電子)蓄積現象(固体イオニクス現象)を詳細に調査し,飛躍的に高い密度の電荷キャリアー蓄積能を固固界面で発現させること,それを利用して応用価値の高い電子物性を劇的に変調する新機能デバイスを創製することである.近年スピントロニクス,およびそれを基盤とする磁気メモリや人工知能技術応用の観点から様々な手法での制御が検討され,キャリアー濃度とも密接な関係がある磁気異方性を,固体電解質界面近傍での固体イオニクス現象を利用して広範囲に制御可能な新規デバイスの開発を行った.まず室温強磁性体で薄膜面内に磁気異方軸を有するFe3O4薄膜とリチウムイオン固体電解質界面を有する全固体薄膜積層型トランジスタを作製した.電圧印加に伴う酸化還元反応によってFe3O4薄膜内に高密度の電子キャリアー蓄積を誘起し,平面ホール効果を利用して磁気異方性の変化を観察した.最大で56度もの磁化ベクトル回転と40%以上の異方性磁界変化を得ることが出来,これは,誘電体とFe3O4を利用する従来型と比較して飛躍的に大きな変調幅であった.さらに,誘電体を利用するものと同程度の非常に低い消費電力で動作した.以上の様に,磁気異方性を低消費電力で大きな変調幅で制御可能な固体イオニクスデバイスを創製した.また,本デバイスの動作機構に関する詳細についても走査型透過電子顕微鏡等を利用して検討した.これらを取りまとめて原著論文として出版するとともに,プレスリリースや口頭発表も行った(受賞1件:[学会発表]に記載).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は強磁性体(Fe3O4)薄膜とリチウムイオン伝導性Zrドープケイ酸リチウム(LZSO)薄膜を利用するトランジスタ構造イオニクスデバイスの開発と基礎的な動作特性の評価,および動作機構の調査を行った.薄膜面内に磁気異方軸を有する110配向Fe3O4薄膜を成膜し,LZSO薄膜と組み合わせてトランジスタを作成した.ゲート電圧印加によりLZSO薄膜中からFe3O4薄膜へのリチウムイオンの挿入・脱挿入を行い電子キャリアー濃度を制御した所,最大で56度もの磁化ベクトル回転と40%以上の異方性磁界変化を得ることが出来た.さらに,強磁場下でのホール測定や高分解能透過電子顕微鏡を利用するFe3O4薄膜/固体電解質薄膜界面の観察といった実験で動作機構の詳細を検討した.強磁場下でのホール測定によって,本デバイスにおけるFe3O4薄膜へのリチウムイオン挿入に起因する電子移動度の正確な変化量を求めることが出来た.また,走査型透過電子顕微鏡を利用するFe3O4薄膜/固体電解質薄膜界面の観察によって,大電圧印加時にわずかに観察される不可逆性の起源を調査し,過剰なリチウムイオンが挿入された場合にFe3O4中に新たに岩塩型構造の領域が生じていることを明らかにした.以上の様に,当初計画していた新規デバイスの開発と基礎的な動作特性の評価のみならず,磁性薄膜の電子移動度変化や不可逆性が生じる原因まで詳細な実験結果を得ることが出来た.これらの調査結果は,取りまとめて原著論文として出版し,プレスリリースや口頭発表も行った(受賞1件:[学会発表]に記載).
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られたデバイスは新規性が高く他の手法と比べて低消費電力であるものの磁気異方性の変化幅(磁化回転角、異方性磁界等)が十分でないため,さらなる向上を目指す.その際には今回のFe3O4系デバイスの改善に加え,別の磁性体や固体電解質材料を新たに採用してデバイス化することも検討する.例えば,集積性でより有利な面外に磁気異方軸を持つ強磁性体薄膜を利用し,高密度電荷キャリアーを酸化還元反応を用いて可逆制御することで磁気異方性を大きく変化させることが可能なデバイスの開発を試みる.この用途に有望な磁性材料探索は今年度並行して実施し,既に有望な系を見つけ予備実験を開始している.また,固体イオニクスデバイスの動作において電気二重層効果が果たす役割について調査し,動作特性との相関について調査する.例えばトランジスタの動作速度との相関について,ゲート電極にパルス電圧を印加した際のドレイン電流の過渡応答を観察する.特に電子材料/固体電解質界面近傍において,どの程度の厚さの領域が電気二重層の挙動を決定しているかについて界面をナノ・サブナノオーダーで制御した詳細に検討し,電池等を含む固体イオニクスデバイスにおける動作特性を界面制御によって改善するための指針を得る.こうした検討に走査型透過顕微鏡やX線光電子分光等を利用するその場観察を組み合わせることで,電圧印加状態の電解質,電子材料におけるイオンの動的な挙動,それに付随して誘起される電荷キャリアー蓄積現象についてより詳細な理解を目指す.
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Research Products
(8 results)