2020 Fiscal Year Annual Research Report
全能性消失時のゲノム構造変化に連動した転写制御機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Program of totipotency: From decoding to designing |
Project/Area Number |
20H05357
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
深谷 雄志 東京大学, 定量生命科学研究所, 講師 (00786163)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 初期胚発生 / 転写バースト / エンハンサー / ライブイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
ショウジョウバエ初期胚において発現する分節遺伝子をモデルとして、全能消失時における転写動態の制御メカニズムについて詳細な解析を行った。ゲノム編集によって標的遺伝子の3´非翻訳領域にMS2と呼ばれるRNAステムループ配列を挿入することにより、遺伝子機能を維持した状態で転写活性をライブ計測できる実験系を構築した。本年度は、TADと呼ばれる高次ゲノム構造の内部における転写動態の変化が、どのように初期胚における遺伝子発現の緻密な空間パターンを生み出すのかについて着目し解析を進めた。MS2配列をもつゲノム編集系統と、MCP-GFP融合タンパク質を発現する系統を掛け合わせ得られた初期胚を共焦点顕微鏡で解析することで、転写活性の経時変化を定量化した。その結果、解析を行った全ての分節遺伝子がバースト上の不連続な転写活性化パターンを示すことを明らかとした。空間的な発現パターンが、転写バーストからどのように生み出されるのかを理解するため、より定量的な画像解析を行った。その結果、細胞の相対的な位置に応じて転写バーストが生み出される連続性が柔軟に変化することが、初期胚における空間パターンの構築に必要であることを見出した。重要なことに、分節遺伝子の多くは同じ空間パターンを生み出す活性を持つ複数のエンハンサーによって制御されているという特徴を持つ。TAD内における転写バーストが制御される詳細な作用機序を明らかとするため、hunchbackと呼ばれる分節遺伝子をモデルとし、重複するエンハンサーの一方をゲノム編集によって欠損させた変異体を新たに作製した。その結果、予想外なことに変異体において転写バーストの発生頻度が異常に上昇し、遺伝子発現の空間パターンが大きく乱れることが明らかとなった。さらに形態学的解析から、1齢幼虫期における体節構造の形成に欠損が生じることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の実施により、初期胚において転写の「揺らぎ」からどのように遺伝子発現の空間的なパターンが再現性高く生み出されるのかという重要な問いに、明確なモデルを提示することができた。さらに同一のTAD内における複数エンハンサーのうち、一方の欠損が異常な転写活性化を誘導するという、予想外の結果が得られた。このことは、TAD内において複数エンハンサーが互いに競合し合うことで遺伝子発現量を適切なレベルに制御しているという、全く新たな作用機序の存在を強く示唆している。これは計画当初には全く予想していなかった成果である。以上の研究結果について、Current Biology誌に論文を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施の過程において、転写バースト活性が遺伝子の持つ複数の転写開始点間で大きく異なるという新たな知見を見出した。この結果は、コアプロモーター領域が転写バーストの制御に重要な役割を果たしていることを強く示唆している。コアプロモーター領域にはTATA-boxやInr、DPE、MTEなどの複数の配列エレメントが存在する。人工的に設計したレポーターシステムを用いて、各コアプロモーターエレメントに変異を導入したMS2遺伝子をシステマティックに作製し、その活性をライブイメージングによって解析することで、転写バースト制御におけるコアプロモーターの役割を解明する。さらに、ゲノム編集によって内在のコアプロモーターの配列を改変した系統を新たに作製することで、転写バーストの変化と遺伝子発現の空間パターン形成に及ぼす影響について明らかとする。重要なことに、遺伝子は全てのコアプロモーターを共通に持っているわけではない。むしろ遺伝子ごとにその構成は大きく異なる。ゲノム編集によって変異導入を行うのに加え、本来持たない配列エレメントを付与する改変を行うことで、なぜ進化的にコアプロモーター配列が遺伝子ごとに異なって選択されてきたのかを検証する。以上により、全能性消失時における転写制御メカニズムの新たなゲノム基盤を解明することが可能となる。
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