2020 Fiscal Year Annual Research Report
ケージド中間体を用いた2種のヘム分解酵素の機構解明
Publicly Offered Research
Project Area | Non-equilibrium-state molecular movies and their applications |
Project/Area Number |
20H05435
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松井 敏高 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90323120)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヘム代謝 / 酸素活性化 / 反応機構 / 水酸化ヘム / ケージド基質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではケージド反応中間体を用いた光駆動反応の解析により、2種のヘム分解酵素(HOとMhuD)の特異な反応機構を解明することを目的としている。今年度は、まずケージド水酸化ヘムの前駆体となるmeso-benzoyloxyprotohemin dimethyl esterを既報に従って合成し、メソ位の修飾位置が異なる4つの異性体を得た。カラム精製によりγ-およびδ-異性体を単離し、γ-異性体についてはo-nitrobenzylで保護したケージド水酸化ヘムの合成にも成功した。他の異性体も同様の手法でケージド水酸化ヘムへと変換できると考えられ、α-/β-異性体は最終生成物の段階で分離可能であることを確認した。ケージド基をγ位に導入した水酸化ヘムにrat HO-1を添加したところ、吸収スペクトルが速やかに変化し、複合体形成が強く示唆された。しかし、光照射によるアンケージング反応は効率的には進行せず、期待した生成物は見られなかった。 さらに、今年度はMhuDと同型のIsdG(黄色ブドウ球菌)の反応解析にも取り組んだ。両者は歪んだヘムを結合する点で共通し、同様の反応機構を持つと提案されているが、ホルムアルデヒド放出の有無など、異なる点も多い。IsdG反応を入念に検討した結果、ホルムアルデヒドの遊離は限られた反応条件でのみ進行し、多くの場合ではMhuDと同様の生成物が得られた。この結果、歪んだ水酸化ヘムではMhuD型の反応様式が一般的であり、その解明が重要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異性体の分離には手間取ったもののケージド水酸化ヘムの合成ルートは確立できた。また、HO複合体の調製にも成功しているため、サンプル調製の主要な課題は解決された。ケージング基の最適化が必要ではあるが、その導入は合成の最終段階にあたるため、多種のケージング基導入はそれほど困難ではない。光反応が可能となれば、その解析手法は既に確立しており、迅速な遂行が可能と考えられる。以上のことから、本研究は概ね順調に進行していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、種々の保護基を導入したγ-ケージド水酸化ヘムを合成し、定常光照射によって速やかな光解離が可能な保護基を決定する。次に他の異性体についてもケージド水酸化ヘムを合成・精製し、各種ヘム分解酵素(HO型およびMhuD型)との複合体を調製する。複合体形成は、吸収スペクトル変化やESI-MS測定、ゲルろ過クロマトグラフィーなどで確認する。次に、強いパルス光(フラッシュフォトリシスなど)で瞬時に脱保護し、O2との速い反応を吸収スペクトルなどで追跡する。反応中間体が観測されれば、pHや温度の最適化により、なるべく明瞭に観測・捕捉できる反応条件・時間領域を決定する。また、反応速度のO2濃度依存性からO2結合と他の反応ステップを区別し、構造推測の基礎情報とする。中間体が検出されない場合、分光測定用クライオスタットを用いた低温反応(~100 K)を試みる。低温では中間体が安定化されるが、光反応は阻害されにくいため、中間体捕捉の可能性は飛躍的に高まる。反応溶液に抗凍結剤(グリセロールなど)を添加して透明な凍結溶液とすれば、凍結状態での光脱保護や吸収測定も可能である。さらに、一時的な昇温によって捕捉中間体を別の中間体や最終生成物に変換し、各状態の作り分けも試みる。以上の実験で観測した中間体について振動分光測定により、構造の同定を試みる。特に重要な酸素の振動については、18酸素でラベルしたO2を用いて同定する。また、ケージド基質-酵素複合体の結晶化も検討し、構造を決定する。
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Research Products
(8 results)