2020 Fiscal Year Annual Research Report
光異性化アミノ酸導入による、リガンド依存性イオンチャネルの光制御化法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Non-equilibrium-state molecular movies and their applications |
Project/Area Number |
20H05449
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
下村 拓史 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 助教 (50635464)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イオンチャネル / 非天然アミノ酸 / 高速分子動画 / 時分割構造解析 / 電気生理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
非天然アミノ酸導入法は、終始コドンに結合できる外来tRNA(サプレッサーtRNA)を利用することで、新たな人工アミノ酸に対応するように終止コドンを再定義する手法である。この手法を利用し、光異性化非天然アミノ酸(PSAA)を標的タンパク質のリガンド結合領域近傍に導入することで、PSAAの光異性化によりリガンド結合を制御できるようにする。本手法をリガンド依存性K+チャネルに適用し、高速分子動画撮像によりイオンチャネルの状態遷移を連続的な立体構造変化として捉えることを狙う。 PSAAの1種であるphenylalanine-4’-azobenzene (Pab)を目的イオンチャネルに導入するため、まず、サプレッサーtRNA/Pab結合性変異アミノアシルtRNA合成酵素をコードするプラスミドを作製した。これとともに、Pabを導入したい位置をTAGに変えた変異体チャネル DNAとともにツメガエル卵母細胞の核に注入した。導入位置はリガンド感受性に重要な残基とその周辺を検討した。複数の導入位置を検討した結果、K+選択的なチャネル電流を生じる導入体を得ることができた。これらを発現した卵母細胞に対して365nm(紫外)および420 nm(可視)の光を照射したところ、いくつかの導入体において光照射依存的にチャネル活性をスイッチできることを確認した。得られた導入体の中で、光依存的スイッチ効率の高い導入部位は、感受性に重要な残基自体よりも近傍残基であることが多かった。これらの結果からは、PSAAの導入位置を適切に選ぶことで、リガンド依存性自体への影響をできるだけ抑えつつ光感受性を付与できることが示唆され、光制御化法としての有用性に期待が持てると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はPab導入体の発現・測定系の確立と、導入体の初期スクリーニングを行った。卵母細胞系においてはPSAA導入の報告はこれまでなかったが、哺乳類培養細胞での先行研究を参考にしてプラスミドDNAを設計し、Pab導入系を確立できた。また、サプレッサーtRNA/アミノアシルtRNA合成酵素とチャネルの発現量を調整するためのDNA注入量や、Pab導入方法などの最適化などを行い、安定的にチャネル電流を測定することが可能になった。さらに、光依存性を簡便に確認するため、constitutively activeなチャネル変異体を利用するなどして、スクリーニングを迅速に行う系を整えた。以上のスクリーニングの結果、複数の光感受性を示すPab導入体を見出すことができた。 現在のところ、光照射による変化が最大なものとして、紫外光照射により70%以上活性を減弱させる導入体を見出している。得られた光感受性導入体について、紫外光・可視光のいずれで活性を亢進・減弱させられるかは異なっており、Pab導入位置に依存して異なる波長で活性を亢進させることが可能なことがわかった。また、いずれの導入体においても光照射によるスイッチは複数回の試行において可逆的であること、光照射により状態をスイッチすれば照射を停止したのちもその状態は長時間安定に維持されることもわかった。このように光照射により明確な活性変化を観察できたため、発現系とともに光照射系も適切に機能していることも確認できた。 以上のように、今年度の実験によりPab導入体発現・測定系の確立と目的チャネルへの光感受性の付与に成功した。細胞レベルでの光制御ツールとしての有用性の検討は遅れているものの、全体としておおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
標的K+チャネルは開状態での結晶化が困難であることが既存の報告から示唆されている。また、紫外光照射により光異性化したPabは、長時間経過すると熱異性化により自発的時に異性化前の状態に戻ってしまう可能性が考えられる。したがって、長時間のインキュベートが必要な結晶化においては、可視光下で閉状態を取るPab導入体を用い、紫外光照射により閉状態から開状態への構造変化を観察するのが望ましい。この目的のために、これまでに得られた紫外光により活性が亢進するPab導入体を複数組み合わせ、より高効率に活性をスイッチできる多重導入体の作製を目指す。 得られた高効率光感受性Pab導入体については、野生型との詳細な電気生理学的手法による比較を行う。光照射によるチャネル活性の制御が、本来のリガンド依存的な制御メカニズムと相同なものであるかを確認する。また、Pab導入によるリガンド感受性への影響、チャネルのコンダクタンスの違い、開状態から不活性化状態への遷移時間への影響の有無などを比較し、時分割構造解析を行ったときに本来のチャネルの状態遷移に関して真に有用な情報が得られるものであるかどうかを確認する。 上記に並行して、結晶化の先行研究にならい目的チャネルタンパク質の精製・結晶化を行う。大腸菌発現系が利用可能であるので、この発現系に利用できるPab導入用サプレッサーtRNA/アミノアシルtRNA合成酵素用とチャネル遺伝子を持つプラスミドで大腸菌を形質転換し、Pab含有培地中でチャネルタンパク質を大量発現させ、精製・結晶化する。
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Research Products
(2 results)