2020 Fiscal Year Annual Research Report
不安障害と回復期にみられる霊長類辺縁皮質-線条体の神経振動の同期現象
Publicly Offered Research
Project Area | Hyper-adaptability for overcoming body-brain dysfunction: Integrated empirical and system theoretical approaches |
Project/Area Number |
20H05469
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
雨森 賢一 京都大学, 高等研究院, 特定拠点准教授 (70344471)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 霊長類 / ベータ振動 / 不安障害 / 意思決定 / 線条体 / 腹側被蓋野 / 接近回避葛藤 / ドーパミン |
Outline of Annual Research Achievements |
不安障害における霊長類の脳機能変容は、辺縁系ネットワーク間の情報伝達の異常によって引き起こされる。研究代表者は、前帯状皮質膝前部(pregenual anterior cingulate cortex, pACC)を中心とした辺縁系の神経振動の過剰な同期が、異常な不安状態を引き起こすとの仮説を立てた。これを調べるため、本研究項目では、マルチサイト記録法により、辺縁皮質-線条体の神経活動を同時記録し、病態期と回復期における神経振動を記録・解析する。本研究項目の具体的な目的として、まずこれまで代表者がマルチサイト記録法により記録してきた、pACC、subgenual cingulate cortex (SCC) の間の神経活動の違いや、局所電場電位 (local field potential, LFP) の同期現象などを解析し、刺激によって誘導される不安状態とその回復状態で、神経活動や同期現象がどのように変化するかを明らかにする。これまで、接近回避の意思決定課題(approach-avoidance decision-making task)を用い、マカクザルの不安生成を定量的に取り扱い、線条体の微小電気刺激により、不安障害に似た悲観的意思決定が誘導できることを明らかにし 論文誌にて発表した。特に、線条体ベータ波は、大きく2グループ(Ap、Avグループ)に分けられることを見出し、論文誌にて発表した。Avグループの振動強度は、不安状態と相関して増加する可能性がある。本研究では、ベータ波神経振動に着目し、その領野間の同期現象を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主に次の3つの研究で進展があった。 1.pACCを起点とした、不安関連ネットワークの解剖学的な解明:まず、我々は、ヒトにマカクザルと同様の葛藤課題を行ってもらい、fMRIによって神経応答を調べ、接近回避葛藤に関わる神経活動を、pACCを起点とした、さまざまな領野で見出し、関連ネットワークがマカクザルとヒトで共通することを明らかにし、Biol Psychiatry 誌にて発表した[4]。この不安関連ネットワークは、ヒトとマカクザルで共通すると考えられる。 2.pACCを起点とする解剖学的結合の研究:このネットワークを明らかにするため、刺激により悲観的な意思決定(不安)が誘導されるpACCの部位にウイルストレーサーを打ち、不安にかかわるネットワークを解剖学的に同定することにした。まず、pACCの投射先が線条体ストリオソーム構造であることを突き止め、EJN誌にて発表した。さらに、pACCから扁桃体に対する投射があり、ネットワークを形成していることを突き止め、不安生成にかかわるネットワークの詳細を明らかにしつつある。一連の結果を、現在Frontiers 誌に投稿中である。 2.SCC-pACCの相互作用の研究:また、我々は、不安障害やうつ病治療のための深部脳刺激術(DBS)の重要なターゲットであるSCCと、pACCからの同時記録を行った。マルチサイト記録法を用いて、課題遂行中のサルの線条体、pACC、SCCから神経活動を同時記録した。そのうち、線条体の神経活動とベータ波に関しては解析を終え、Frontiers誌で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究項目では、pACCとSCCの関係性を調べる。2つの領野の関係性を表す重要な指標の一つに、ベータ波の同期(つまりコヒーレンス)があげられる。線条体刺激によって悲観状態を引き起こし、コヒーレンス強度が刺激効果と相関するかを調べる。もし、2つの領野の膜電位が、ベータ波と同じように振動しているとすると、ベータ波が非同期の場合には、2つの領野間のスパイクの影響は非常に弱い一方、膜電位が同期していると、スパイクも伝達しやすい状態になっていると考えられている(communication through coherence 仮説)。本年度は、組織学的に電極の位置を再構成し、pACCや、SCCに電極が刺入されていたことを確認した。今後、領野間のコヒーレンスが、不安状態によって変化するかどうかを調べる。pACCとSCCの LFP の間のコヒーレンスを計算し、同期の度合いを計算したところ、高ベータの帯域で特に強い同期(コヒーレンス)があることがわかってきた。こうしたデータ解析を進め、さらに、不安が誘導されたときに pACC と SCC の相関関係がどのように変化するかを明らかにする。
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