2020 Fiscal Year Annual Research Report
恐怖記憶による不適応状態からの超適応を支える脳領域間ネットワーク変化の制御機構
Publicly Offered Research
Project Area | Hyper-adaptability for overcoming body-brain dysfunction: Integrated empirical and system theoretical approaches |
Project/Area Number |
20H05477
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
宮脇 寛行 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (40785979)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 恐怖学習 / 睡眠 / 大規模電気生理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
恐怖記憶が形成されると、その記憶が強すぎるために適応的な行動が取れなくなる不適応状態に陥る。一方、恐怖記憶の消去は、恐怖の記憶を保持しつつも新たな学習を行い適応的な行動を回復する超適応過程であると考えられている。本年度は、この恐怖記憶による超適応変化を理解するための基礎となる知見として、そもそも不適応状態への遷移にともないどのような変化が脳領域間ネットワークに生じるのかを明らかにするために研究を行った。 具体的には、恐怖記憶への関与が知られている扁桃体、大脳皮質前頭前野、腹側海馬の3つの脳領域で同時に大規模電気生理学記録を行い、それぞれの領域から多数の神経細胞の活動を記録した。恐怖条件づけ課題を行っている際の神経活動パターンに独立成分分析を適用することによって、これらの脳領域で同時に活動するセルアンサンブルを同定し、さらに課題終了後の睡眠中にこれらのセルアンサンブルがどの程度活動しているかを解析した。その結果、扁桃体、大脳室前頭前野、腹側海馬の3つの脳領域のいずれにおいても、睡眠中に恐怖条件付けの際の活動パターンが再び活性化されることを見出した。さらに、これらの活動パターンのうち一部については、異なる脳領域にありながら同期して活動するものがあることを発見した。 そこで、有意な同期活動が見られるセルアンサンブルについて、個々の同期活動のタイミングを特定し、その際におこる局所電場電位のパターンをウェーブレット変換を用いて解析した。その結果、これらの脳領域横断的な同期活動の際には、各領域で100-200Hz程度の速い局所電場電位の振動が一過的に生じることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、3領域同時・大規模電気生理学記録を行い、恐怖条件づけ課題を用いた基底状態-不適応状態-超適応状態の状態遷移の連続記録を行うことができた。さらに、当初計画の中でも挑戦性の高い部分であった、脳領域横断的なネットワーク構造の変化については、独立成分分析を用いたセルアンサンブルの同定とその活動強度の推定、相互相関関数を用いた解析などの数理的な手法を駆使することにより、概ね当初の予定通りの進捗を達成することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に行った解析は、いずれも2領域間の相互作用を対象とするものにとどまっている。そこで今後は、新たに3領域の同期活動を評価できる指標を確立し、3つ以上の脳領域が関与する脳領域横断的な同期活動の有無を検討する。これにより、不適応状態への遷移にともなう脳領域間ネットワーク動態の全体像の把握を目指す。 さらに、消去学習により生じるネットワークの変化にも取り組む。具体的には、消去学習の際の活動パターンからセルアンサンブルを同定し、それを恐怖条件づけ学習の際に同定されたアンサンブルと比較する。さらに、両者に共通するアンサンブルと一方でのみ見られるアンサンブルを区別に、それぞれについて睡眠中のアンサンブル活動の動態や、脳領域横断的な同期活動への関与について比較する。以上の解析を通し、消去学習による超適応を支える脳領域間ネットワーク動態を解明する。
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