2020 Fiscal Year Annual Research Report
Emergence of novel functions through integration of bio-metal complexes with nucleic acids and its application to integrated bio-metal science
Publicly Offered Research
Project Area | Integrated Biometal Science: Research to Explore Dynamics of Metals in Cellular System |
Project/Area Number |
20H05496
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山本 泰彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00191453)
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Project Period (FY) |
2020-10-30 – 2022-03-31
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Keywords | RNAワールド / 四重鎖RNA / U-カルテット / G-カルテット / ヘム / 金属付加酵素 / 機能性核酸 / 触媒機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
グアニンに富むDNA、RNAは、四重鎖を形成する。ヘモグロビン、ミオグロビン等のヘムタンパク質の補欠分子族として生物界に遍在するヘムは、四重鎖DNA、四重鎖RNAに特異的に結合し、酸化触媒活性をもつヘム-核酸複合体を形成することを、私は明らかにした。ヘムは核酸の補欠分子族としても機能することが示されたのである。生命誕生以前の原始地球上で、ヘムの先祖と言える金属錯体が、核酸の補欠分子族として機能していた可能性があると考えられる。一般的に、ヘムの反応性は、ヘムの電子構造を通した電子的因子とヘム近傍の構造化学的環境を通して調節されることが知られているので、それらの最適化により、ヘム-核酸複合体の機能を創発することができると考えられる。 今年度の研究では、まず、種々の電子構造をもつ化学修飾ヘムを用いてヘム-核酸複合体を調製し、それらの酸化触媒活性を計測した。その結果、ヘムの側鎖に電子求引基を導入すると複合体の触媒活性は減少し、一方、電子供与基を導入すると活性は増大することを明らかにした。また、DNA塩基配列を調節して複合体におけるヘム近傍にアデニン塩基を配置すると、複合体の触媒活性は増大することも明らかにした。その理由としては、アデニン塩基の孤立電子対をもつ窒素原子が、一般塩基触媒として作用するため、ヘム鉄に結合した過酸化水素の脱水素反応が促進されて、結果的に酸化触媒反応の重要な中間体であるオキソ鉄4価ポルフィリンπカチオンラジカル錯体(Compound I)の生成が促進されるからであると考えられる。これらの結果から、ヘム-核酸複合体のヘムの反応性は、ヘムの化学修飾および核酸の立体構造を通して調節できることが明らかになった。このように、生命金属錯体であるヘムの四重鎖核酸に対する特異的な分子認識を利用して、新しい機能をもつヘム-核酸複合体を創出するための分子設計に有用な知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
触媒作用をもつRNAであるリボザイムは、「RNAワールド」仮説の根拠の一つとして知られている。ただし、現在知られているリボザイムの機能は、エステル交換や加水分解を通したリン酸基転移反応に対する触媒作用のみであり、自己複製系の実現には不十分である。生命誕生の痕跡として知られているストロマトライトは光合成を行うシアノバクテリアの化石だと考えられているので、生命誕生以前に、クロロフィルの先祖と言える環状テトラピロールの金属錯体が存在し、光合成に利用されていたと考えられる。したがって、RNAワールドで、それら金属錯体がRNAに組み込まれることにより達成されたリボザイムの触媒機能の拡張が、自己複製系の実現に寄与していた可能性がある。 ヒトの染色体の末端領域テロメアで見られる繰り返しDNA塩基配列の基本単位であるヘキサヌクレオチドd(TTAGGG)が4分子集まって形成する四重鎖DNAにヘムは特異的に結合し、酸化触媒活性をもつ複合体を形成することを、私は明らかにした。複合体におけるヘムと四重鎖DNAの結合様式は、ヘムのポルフィリン環とグアニン塩基4つが水素結合により環状に連結して生じたG-カルテットのπ-πスタッキング相互作用である。 DNA塩基配列d(TTAGGG)に対応するRNAの塩基配列r(UUAGGG)も、4分子で四重鎖RNAを形成する。RNAのリボース環の2’位の炭素原子には水酸基が結合しているので、この水酸基が分子内または分子間で水素結合を形成することができる。そのため、構成する塩基の数が同一であれば、四重鎖RNAの方が四重鎖DNAよりも安定性が高いことを確認した。さらに、四重鎖RNAは、G-カルテットに加えて、G-カルテット同様にウラシル塩基4つが水素結合により環状に連結して生じるU-カルテットをもつので、ヘムの新たな結合部位となることを示唆する結果を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
原始地球上におけるRNAワールドの出現に金属錯体が一翼を担っているとする私の予想では、前生物進化で原始地球上に金属錯体が生成していなければならないことになる。まず、ポルフィリン環は、原始地球上にも存在していたと考えられるアンモニア、アセチレンとホルムアルデヒドから生成することが実証されていることから、原始地球上にポルフィリン環は存在していたと考えられている。したがって、地球上の地表付近に存在する元素の割合を表すクラーク数が4番目の鉄イオンが挿入されて、ヘムの先祖と言える金属錯体が生じていた可能性は高いと考えられる。ただし、ヘムの合成反応の最終段階であるポルフィリン環への鉄イオンの挿入は遅いため、生体内には鉄付加酵素(Ferrochelatase)が存在し、鉄イオンの挿入反応を促進している。 私は、生命誕生以前に四重鎖RNAが金属付加酵素(キレターゼ)活性をもつ触媒として機能しており、G-カルテットやU-カルテットは活性中心であった可能性があると考えている。実際、G-カルテットやU-カルテットの重心近傍は電子が豊富であるので、G-カルテットにπ-πスタッキングしたポルフィリン環の中央への金属イオンの接近に都合が良いと言える。また、非標準塩基イノシンが形成するI-カルテットの電子構造も、他の2種類のカルテットと基本的に同様である。そこで、Fe2+、Zn2+をはじめとする様々な二価金属イオンを用いて、それら金属イオンのポルフィリン環への挿入反応が、四重鎖核酸の存在下で促進されることを検証する。 また、四重鎖RNAがキレターゼとして作用するためには、ポルフィリン環が四重鎖RNAに結合することが必要である。そこで、ヘムやクロロフィルの前駆体であるプロトポルフィリンIX をはじめとする環状テトラピロール類とG-カルテット、U-カルテットおよびI-カルテットの相互作用を解析する。
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Research Products
(8 results)