2020 Fiscal Year Annual Research Report
Quantum Bioenergetics for Exploring Dynamics of Metals in Protein
Publicly Offered Research
Project Area | Integrated Biometal Science: Research to Explore Dynamics of Metals in Cellular System |
Project/Area Number |
20H05497
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
重田 育照 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (80376483)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 電子状態計算 / 反応解析 / 構造解析 / 電子移動反応 / プロトン移動反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、従来の(化学)熱力学や電気化学を基礎とする古典的生体エネルギー論を拡張し、量子論的な理解を通した生体エネルギー論を展開する。そのため我々がこれまで開発してきた平均場理論に基づくフラグメント分子軌道法(FMO: JCCJ2014, 2015)をベースに、高精度な第一原理計算と低精度のそれを組み合わせたハイブリッドQM/QM法を新規開発する。具体的なターゲットとして、近年、時間分解X線結晶構造解析によりそのダイナミクスが解明されつつある「シトクロムc酸化酵素の酸化還元と結合したプロトン輸送」を取り扱い、化学エネルギーを膜間電位差へ変換する過程における金属動体の詳細を明らかにする。特に下記の2つのテーマを遂行する (1)反応解析に有効なQM/MM計算では酸化還元電位の相対値は算出できるものの、絶対値の特定は困難である。したがって、タンパク質の全系の電子状態を量子力学的に取り扱う必要がある。申請者のグループが開発しているフラグメント分子軌道(FMO)法、および、FMO-LCMO法を発展させ、活性サイトおよびプロトン移動経路を取り扱える大規模なQM/QM計算手法を開発する。 (2)シトクロムc酸化酵素では、大きく分けて3つの水素(プロトン)輸送経路、および金属補酵素を含む電子移動経路が存在する。特にポンプされるプロトンは、タンパク質内ではプロトン移動がスムーズに行われるよう、経路上のアミノ酸残基のpKaに勾配があると考えられている。しかしながら、結晶構造のみからその詳細を検討することは困難である。大規模QM/MM計算によりプロトン輸送経路・電子移動経路に重要なアミノ酸残基、結晶構造には含まれない水の存在の有無を理論予測する。また、阻害剤・活性化剤の効果を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体内の電子移動(ET)反応は、タンパク質中を電子が長距離トンネル移動することで起こっていることが分かっている。しかし、電子トンネル移動を媒介するタンパク質環境の役割については、未だ明らかになっていない点が多い。 我々は、フラグメント分子軌道(FMO)法を用いてタンパク質中のET経路を高精度かつ低計算コストで解析する手法の開発を行ってきた。この手法では、FMO法のフラグメント電子状態計算の結果から、全系のハミルトニアンや分子軌道関数を計算するFMO線形結合(FMO-LCMO)法を基に、電子トンネル行列要素(TDA)計算やET経路解析が実行される。ここでは以下で説明する簡単なモデル架橋分子を採用し、全系をDFTで解いて一般化Mulliken-Hush(GHM)法で求めた場合のKohn-Sham軌道によるTDA計算の精度検証と、FMO-DFTに基づくブリッジグリーン関数(BGF)、および採用する分子軌道を制限するLCVMO法を用いた場合の性能評価を行った。 FMOを用いたET計算の性能の妥当性を、以下の3種類の異なるタンパク質-ETモデル分子について実証した。(1) α-helixとβ-strand構造のポリアラニンリンカーによって共有結合で架橋された2つのトリプトファン間の正孔輸送(モデル1)、(2) α-helixとβ-strand構造のポリアラニンリンカーによって共有結合で架橋された2つのプラストキノン間の電子輸送(モデル2)。 また、金属タンパク質のモデル系として(3) Ru修飾アズリン誘導体のモデルとして、ポリグリシンリンカーによって共有結合的に架橋されたルテニウム(Ru)と銅(Cu)錯体間の正孔移動のリンカー伸長依存性(モデル3)を検討した。(H. Nishioka-Kitoh, Y. Shigeta, K. Ando, JCP 2020, 153, 104104)
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Strategy for Future Research Activity |
呼吸鎖終端酵素であるシトクロムc酸化酵素(CcO)は、酸素を還元し、その余剰エネルギーを用いてプロトン濃度の低いネガティブサイトからポジティブサイトに能動的にプロトンを輸送することが知られている。CcO内には電子伝達経路であるCuAサイト・Heme_aサイト、酵素活性部位であるHeme_a3・CuBサイト(金属2核中心)の3つの金属サイトが存在し、それらがCcOの酵素活性を担っている。近年、CcOを阻害する化合物がいくつか見つかり、そのうちある種の化合物はHeme_aサイトとHeme_a3サイト近傍のヘリックスに結合していることが判明した。 R02年度には、分子動力学計算を用いて、阻害剤の有無によりどのような構造変化が阻害過程に効いているのかを検証した。まず、電子移動の阻害の可能性を検討するため、Heme_aサイトとHeme_a3サイトのFe原子間の距離を計測した。阻害剤有りの方は、阻害剤無しの方に比べ、Fe原子間距離が若干伸びる(1オングストローム程度)ものの、大きな差異は見られないことがわかった。一方で、Heme_a3サイトのプロピオン酸に水素結合していたLysが外れ、Heme_aサイトのプロピオン酸と水素結合を形成することとなった。この変化が電子移動にどのように関わるかを調べるため、QM/MMなどの量子化学計算による検討を進める方針である。また、実験ではHeme_aサイトからHeme_a3サイトへの電子移動が阻害されていることが、示唆されている。そこで、分子動力学計算で得られたいくつかの代表構造に対して電子移動経路の解析を行うことで、阻害メカニズムを解明する。
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