2020 Fiscal Year Annual Research Report
Collective information transfer about external stimulus to active matter
Publicly Offered Research
Project Area | Information physics of living matters |
Project/Area Number |
20H05528
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
永井 健 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 講師 (40518932)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アクティブマター / C. elegans / 集団運動 / 外部刺激応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドッグフードを餌として用いるこれまでの培養方法では実験を開始するまでに2週間の準備が必要で、得られる実験データ量が少なすぎるため改善を試みた。検討の結果、ドッグフードを使っている限り大きな改善は見込めないことが判明し、年度途中に新たな培養法開発の必要が生じた。 そこで、液体培養法を応用した実験手法を開発した。この手法では濃い大腸菌懸濁液の中で培養し、大量の餌を用いることで大量の線虫を得ることができる。培養のプロトコールを調整することで最終的に一週間に二つ以上の条件下での実験を行えるようになった。また、オンラインストレージサービスと高性能PCを組み合わせることで高時空間分解能のもと一週間撮影し続けることが可能なシステムを整えた。これらの培養・撮影法を組み合わせてハイスループットにデータを得られる手法の開発に成功した。この実験手法があれば研究期間内に当初の研究目標達成のために必要な実験回数を確保できると見積もっている。 従来のドッグフードを用いた手法で得られるほとんどの線虫はダウアーステートと呼ばれる緩慢な動きをする状態である。新たに開発した手法を用いるとダウアーステートではない幼虫とアダルトの線虫からなる集団を得られる。つまり、この実験手法開発によりこれまで観察できなかった条件下での集団運動の研究をすることが可能になった。 ダウアーステートではない線虫集団の挙動の一つとして、寒天表面で生成・分裂・融合を繰り返すクラスターが見られた。複数のクラスターが近くにあるとき、一番大きいクラスターに他のクラスターが吸収されていく。時折、分裂もするためクラスターのサイズは単調増加せず、クラスターサイズには上限がある。 今後はこのようなダウアーステートではない線虫の集団運動やダウアーステートの線虫が見せる集団運動の外部刺激に対する応答についての研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度途中に既存の実験手法を用いた本研究の推進は困難であると判明し、実験手法の改良に多くの時間を使った。その結果、光刺激による応答挙動の観察を当初の研究計画ほど進めることができなかった。そのため、やや遅れている、と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度は線虫集団の光刺激応答に関する研究を進めた後、応募時に2021年度の計画として挙げていた研究を進める。具体的には下の3項目を進める。 1. 光刺激に対する線虫集団の応答の観察: 運動に関わる神経を光刺激できる株を使って集団運動の刺激応答性を調べる。網目などの構造を作る線虫集団に対して光を照射し、構造と応答の関係を調べる。様々な強さや照射時間の定常光刺激、周期的など強さが時間変化する光刺激、空間構造をもった光刺激を用いて応答挙動を観察する。集団で作る構造を変えたり、構造の真ん中や端など光を照射する場所を変えたりしながら解析をすすめる。 2. 音波刺激に対する応答の観察: 光以外の音波刺激に対する応答性を調べることで、集団運動の応答挙動の一般的な理解につなげていく。光刺激の実験で得た知見をもとに、刺激と応答の関連性がとらえやすいと予想される音波の周波数や振幅を選び、様々な秩序構造に刺激を加える。音響レンズを用いて光刺激と同様に局所的刺激応答性を観察する。音波のような力学的刺激の場合、特別な遺伝的操作無しにほとんどの線虫が応答能を持つ。そこで、様々な運動に関する変異体を用いた線虫集団の応答を調べる。 3.モデルの詳細な解析: 線虫集団の定常状態の解析に用いたモデルを元に1.、2.で得た応答挙動を記述するモデルを得る。モデルが実験結果と相違ない挙動を示すようになったら、時間周期やスポットの広さなど刺激の時空間構造を細かく変えながらモデルが示す集団運動の応答を観察する。この時、実験では実現し得ないパラメータを含む様々な挙動の変化を観察する。そして、集団の中の個々体の位置変化などのミクロな挙動を参考にしながら、刺激の情報伝達に関わる因子を探る。同時に多粒子モデルから連続場の偏微分方程式の導出し、分岐解析などから外部刺激応答に対する理解を深める。
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