2020 Fiscal Year Annual Research Report
Autonomous mechanics of biological nanomachines elucidated by coarse grained models
Publicly Offered Research
Project Area | Information physics of living matters |
Project/Area Number |
20H05538
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
好村 滋行 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (90234715)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナノマシン / 非平衡 / ソフトマター / 酵素 / ラチェット |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度には、自律的に構造変化する生体ナノマシンの非平衡性の解明に関する研究を行った。具体的には、「アクティブ・ダンベルモデル」を考察し、ダンベルが生成するアクティブな力双極子の統計的性質を解析的および数値的な手法を用いて調べ、特にその基質濃度依存性を詳細に解析した。その結果、基質濃度が大きい場合、時間相関関数は周期的な時間依存性を示すことがわかった。また、我々は酵素と基質を含む溶液に対応して、上のアクティブ・ダンベルを含む溶液のずり粘性率を計算し、特にずり粘性率の基質濃度依存性に関する結果を得た。 令和2年度には、熱的に駆動される生体ナノマシンの運動機構の解明に関する研究も行った。ばねの自然長からの変位に対する連立のランジュバン方程式から出発して、非平衡定常分布の計算を行った。次に計算した非平衡定常分布を用いて非平衡状態を特徴づける確率流の計算を行った。確率流は正味の遷移確率を表す物理量であり、詳細釣り合いが成り立つか破れるかが判定できる。特に非平衡定常状態においては、形状空間の中で確率流のループが形成される。それぞれの球の抵抗係数が同じ場合、確率流は両端の球の温度が異なるときに有限の値を持ち、同じときにゼロになることが分かった。一方、それぞれの抵抗係数が異なる場合、両端の球の温度が同じであっても確率流は有限の値を持ち、抵抗係数と異なる温度の組み合わせで表される特徴的な温度によって決まることがわかった。それぞれのバネの変位に対応する二つの実効的な温度が等しい場合に確率流は消失する。 さらに確率流のフラックスループの回転速度を表す周波数行列の固有値を計算した。抵抗係数が同じ場合の周波数行列の固有値を用いて熱的に駆動されるマイクロマシンの平均速度を表した結果、平均速度はマイクロマシンの形状変化、熱ゆらぎ強度、確率流の回転の三つの要素によって決定されることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、研究実績の概要で述べたように、自律的に構造変化する生体ナノマシンの非平衡性の解明と、熱的に駆動される生体ナノマシンの運動機構の解明の二つの課題について、それぞれ研究目的を達成することができた。具体的に得られた結果については、すでに論文としてまとめて公表している。そのため、令和3年度には、研究計画に従って、残りの二つの研究課題に取り組む予定である。そのため、現在までの進捗状況としては、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、構造流体中の生体ナノマシンの遊泳機構の解明に関する研究を遂行する。我々はこれまでに、粘弾性体中の微小運動体の遊泳について研究を進めており、「スイマー・マイクロレオロジー」という新しい測定手法を提案してきた。その際、従来のアクティブ・マイクロレオロジーで用いられた「一般化されたストークスの関係式(GSR)」を仮定した。しかし、媒質がソフトマターである場合、必然的にメソスケールの不均一構造が存在するため、一般にGSRは妥当ではないことが指摘されている。そのため、我々はソフトマター中の生体ナノマシンの遊泳挙動について考察し、特にソフトマターの不均一構造がその運動に及ぼす影響を重点的に調べる。 さらに、自律的に遊泳する生体ナノマシンの粗視化モデルの構築の課題に取り組む。上記課題で用いる三つ玉スイマーでは、二つのアームの周期運動が予め外部から与えられている必要がある。しかし、現実の生体ナノマシンや微生物の遊泳では、アームの運動や運動速度が自律的に選択される。このような自律的な機構を考慮するために、我々は二つのアームを振動子と捉え、振動子間の結合を同期モデルに基づいて導入する。最初は弱結合極限に着目して、位相間の結合定数を変化させたときに、初期位相に依存しない定常的な位相差が実現するかを調べる。さらにその定常的な位相差によって、生体ナノマシンが定常的な遊泳速度を自律的に獲得するかどうかを検討する。 予備的なシミュレーションと解析によると、結合定数の増加にともない、速度がゼロの状態から有限速度をもつ状態への分岐現象が見られている。そのため、この分岐構造の詳細な検討を行うと同時に、強結合極限でのモデルの振る舞いについても調べる。また、自律的に遊泳する生体ナノマシンに対する周囲の溶媒の粘弾性効果も調べる。
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