2020 Fiscal Year Annual Research Report
微生物間相互作用から解き明かす大腸菌ゲノムに残された機能未知遺伝子の生理的役割
Publicly Offered Research
Project Area | Post-Koch Ecology: The next-era microbial ecology that elucidates the super-terrestrial organism system |
Project/Area Number |
20H05586
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
本田 孝祐 大阪大学, 生物工学国際交流センター, 教授 (90403162)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 機能未知遺伝子 / 大腸菌 / 乳酸菌 / 共培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、異種の微生物群を共培養に供した場合にのみ機能発現する遺伝子に焦点を当て、純粋培養に立脚した旧来のアプローチではアクセスすることのできなかった未知の遺伝子機能に迫るものである。モデル微生物として汎用される大腸菌の遺伝子を解析対象とし、同菌を乳酸菌と共培養した際に、顕著な発現変動を示した遺伝子を選抜した。大腸菌としてEscherichia coli BW25113株、乳酸菌としてLactobacillus plantarumを使用し、これらをM9最小培地上で共培養した。L. plantarumは複数のアミノ酸に対する要求性を示し、本来M9培地上では増殖できないが、大腸菌との共培養により生育が可能となった。 本共培養系より回収した大腸菌・乳酸菌の混合菌体、ならびにM9培地で純粋培養した大腸菌の菌体のそれぞれよりtotal RNAを抽出し、RNA-seq解析に供した。このうち、純粋培養時に比べ発現レベルが有意に向上もしくは低下した大腸菌由来遺伝子を選抜した。発現レベルが向上した遺伝子群には、セレン代謝に関わると推定されるもののその生理的役割は明らかとなっていない遺伝子(ydfZ)などが含まれていた。一方、発現が低下した遺伝子群の中にはメチオニンやバリン、イソロイシンなどのアミノ酸生合成に関わると考えられる遺伝子が複数含まれており、大腸菌はL. plantarumの存在に応答して、そのアミノ酸生合成能を抑制することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、大腸菌を他の微生物との共培養に供した際の遺伝子発現プロファイルの変化に着目し、同菌のゲノム上に残された機能未知遺伝子の生理的役割を解明することを目的とするものである。現在までの取組みで、大腸菌を乳酸菌とともに培養することで機能未知遺伝子のひとつであるydfZの発現量が向上するなど、本課題の着想の妥当性を示す結果を見出すことができている。一方で、一部のアミノ酸の生合成遺伝子群など、その生理的機能がすでに解明されている遺伝子の中にも、共培養により予期せぬ発現変動を示すものが多数見出された。これらの遺伝子は、他の微生物との相互作用(協働や競争)において、これまでに知られていた生理機能とは異なる何らかの役割を担っているとも考えられる。このように課題立案当初には想定していなかった成果も取得されるなど、おおむね順調に研究は進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のとおり、すでに生理的機能が解明されている遺伝子であっても、他の微生物が共存する環境下においては、純粋培養時のそれとは異なる機能を果たす可能性が見出されている。次年度は、こうした副次的な機能に着目した研究を進める。具体的には、メチオニン等のアミノ酸生合成が、大腸菌・乳酸菌の共培養系に及ぼす影響を精査すべく、当該遺伝子の過剰発現や培地中へのアミノ酸添加などを行い、両細菌の生育プロファイルに及ぼす影響を調査する。また乳酸菌培養液から得られる各種画分(培養上清を適宜分画したものや細胞そのもの)を大腸菌の純粋培養液に添加し、共培養時と同様の遺伝子発現レベルの変化が見られるかどうかを検証し、これらの遺伝子の発現変動のトリガーとなっている因子を探索する。
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