2009 Fiscal Year Annual Research Report
XAFSによるエアロゾル中の元素の化学種解析:カルボン酸錯体の生成や鉄の溶解性
Publicly Offered Research
Project Area | Linkages in biogeochemical cycles between surface ocean and lower atmosphere |
Project/Area Number |
21014008
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 嘉夫 Hiroshima University, 大学院・理学研究科, 教授 (10304396)
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Keywords | エアロゾル / XAFS / カルシウム / 鉄 / 中和 / シュウ酸 / 溶解性 / プランクトン |
Research Abstract |
黄砂は長距離輸送途上で化学的に変質をし、黄砂中の元素は様々な化学変化を受け、その結果黄砂の環境への影響が変化する。ここでは、中国西部タクラマカン砂漠そばのアクスから中国東部青島およびつくばまで長距離輸送された黄砂中のカルシウムや鉄が受ける化学変化をXAFSにより追跡した結果を示す。なお、XAFSの検出法として固体表面50nm程度の範囲に敏感な電子収量法(CEY法)とバルク分析である蛍光法(FL法)の2つの方法を併用した。 Caについては、砂塵現象が頻繁に起きる3月(2002年)に得られた試料では、アクスではCa化学種のうち90%以上が方解石であるのに対し、黄砂が東に運搬されると共に、青島などでは石コウの割合が多くなることが分かった。またアクスの試料では、(EY法とFL法のいずれもが同様の結果を与え、砂漠由来のカルサイト成分が化学変化を受けることなくアクスにもたらされることが分かる。一方青島およびつくばでは、バルク分析であるFL法に比べて表面敏感なCEY法で石コウの割合が高くなり、大気中で硫酸と方解石が反応した結果、黄砂粒子表面で石コウの割合が高くなったと推定された。また同様の傾向は、人為的なSO_2の放出が多いとされる冬期(2002年1月)で、より顕著に見られた。これらの結果は、砂漠由来の方解石が、大気中の硫酸などの酸性物質の中和剤として働いていることを示す。実際に、試料を回収したフィルターを水に浸した際のpHは、非黄砂期よりも黄砂期の試料で高くなっていた。さらに粒径が小さな成分では、シュウ酸錯体が生成していることが分かった。 Feについても同様の分析を行った。その結果、砂漠由来の鉄を含む粘土鉱物(特に緑泥石)が、黄砂の長距離運搬過程で酸性物質と反応し、水酸化鉄に変質することが分かった。北太平洋では、黄砂によって運搬される鉄により植物プランクトンの生育が促進されると考えられている。しかし、その促進の程度は黄砂中の鉄が溶存し易い化学種であるかどうかに左右される。実際に中国西部と東アジア沿岸部で回収された黄砂試料を比較した場合、後者で100倍程度鉄が溶解し易いことが報告されでいる。本研究の結果は、主に人為起源と考えられる酸性物質の影響により黄砂中の鉄化学種が変化して海水への鉄の溶解度が高まり、その結果最終的に植物プランクトンの生育促進とそれにより引き起こされる二酸化炭素の吸収をもたらす可能性があることを示唆する。
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Research Products
(14 results)