Research Abstract |
百日咳菌は長期間にわたる痙攣性咳嗽を惹起するが,その感染機構については未だ不明な部分が多い。百日咳菌のモデル菌株である気管支敗血症菌を用いた実験から,ボルデテラ属細菌の気道上皮への長期定着はIII型分泌装置(以下T3SS)に依存した現象であることが報告されているが,感染に関わる病原因子は不明であった。本研究はT3SSを介して宿主に移行するエフェクターの機能解析を行なうことで,ボルデテラ属細菌の長期定着機構を分子レベルで明らかにすることを目的としている。培養細胞による感染実験の結果より,BopNがIL-10産生を正に制御するエフェクターであることを明らかにした。さらにマウスを用いたin vivo感染実験の結果より,BopNは気管支敗血症細菌の病原性発揮に必須な病原因子であり,感染時のIL-10の産生増強はBopNが関与していることを明らかにした。さらに,フローサイトメトリーを用いた解析より,肺内のCD11c+細胞がIL-10の産生に関与することを明らかにした。培養細胞の感染実験より,BopNはMAPKファミリー(ERK,p38,JNK)の分子を脱リン酸化することで,シグナルを負に調節することを明らかにし,MAPKシグナルの特異的阻害剤を用いた実験より,BopNに依存したIL-10の活性化にはERKのシグナル伝達の阻害が必須であることを明らかにした。さらに,BopN遺伝子をクローニングした発現ベクターを培養細胞に導入したところ,BopNは核に移行するエフェクターであることを明らかにし,BopNの箪養細胞での発現においても,MAPKシグナルの抑制とIL-10の産生増強を確認した。また,BopNの核移行によりNF-κBp65の核移行が阻害される一方で,NF-κ Bp50の核移行は増強された。NF-κB p50はIL-10の転写活性化に関与することが報告されていることから,BopNはNF-κB p50の核移行を促すことで,IL-10の転写を誘導することが示唆された。以上,申請者らの実験でBopNによるIL-10の産生増強は,ボルデテラ属感染に重要な役割を示すことを明らかにした。
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