2009 Fiscal Year Annual Research Report
鉄フタロシアニン錯体におけるパイd相互作用とスピン・軌道・電荷の秩序と揺らぎ
Publicly Offered Research
Project Area | New Frontier in Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom |
Project/Area Number |
21110506
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀧川 仁 The University of Tokyo, 物性研究所, 教授 (10179575)
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Keywords | 鉄フタロシアニン錯体 / 核磁気共鳴 / パイd相互作用 / 電荷秩序 / 反強磁性秩序 |
Research Abstract |
鉄フタロシアニン錯体TTP[Fe(Pc)(CN)_2]_2に関して、鉄のd電子と強く結合するシアノ基上の炭素サイト、及びパイ電子密度が大きいPC環上の炭素サイトをそれぞれ^<13>C同位体で置換した試料について、NMR測定を行った。前者については、12Kの反強磁性転移に近い温度領域を除く常温から4Kまでの広い温度範囲において、スピン格子緩和率(1/T_1)、及びスピンエコー減衰率(1/T_2)を測定した。反強磁性転移に向かって1/T_1、1/T_2ともに通常の局在スピン系の臨界発散よりも格段に激しい増大を示した。一方後者に関しては、鉄のd電子が2副格子の反強磁性に秩序化した4.2Kにおいて、PC環内の炭素サイトのNMRスペクトルを測定した。予想に反して、内部磁場がゼロから1テスラ程度に広く分布することを示す非常に幅広いNMRスペクトルが得られた。これはシアノ基上の炭素サイトのNMRスペクトルがシャープな共鳴線を示し、鉄のd電子の秩序モーメントの大きさに分布がないのと対照的で、パイ電子の磁化には、例えばスピン密度波状態で実現するような大きな分布が生じていることを示している。伝導バンドの1/4を占めるパイ電子系は2倍周期の電荷秩序を示しやすいことが知られており、これとパイ電子系の反強磁性素スピン相関は、鉄d電子系の反強磁秩序とのフント結合と競合する。パイ電子系のモーメントの分布はこのようなフラストレーションの効果として理解できる可能性がある。今後理論家との議論を深める必要がある。一方で、今回用いた結晶は、こまかまツインがあり結晶軸の方位に分布がみられ、これがNMRスペクトル幅の原因ともなっている。今後は、試料合成方法を改善し、軸のそろった大型結晶を育成する努力も必要である。
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Research Products
(2 results)