2010 Fiscal Year Annual Research Report
鉄フタロシアニン錯体におけるパイd相互作用とスピン・軌道・電荷の秩序と揺らぎ
Publicly Offered Research
Project Area | New Frontier in Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom |
Project/Area Number |
21110506
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀧川 仁 東京大学, 物性研究所, 教授 (10179575)
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Keywords | 鉄フタロシアニン錯体 / 核磁気共鳴 / パイd相互作用 / 電荷秩序 / 反強磁性秩序 |
Research Abstract |
今年度は主としてフタロシアニン環上の炭素サイトのNMR測定を行い、伝導と担うパイ電子のスピン密度分布と磁気秩序の様子を調べた。常磁性状態でのNMRスペクトルの温度依存性を調べたところ、スペクトルの重心が殆ど変化していないことから、d電子がキュリー・ワイス則に従うのと対照的に、パイ電子の磁化率は温度に依存しないことが分かった。また、スペクトルの線幅が低温で増加し、磁化率に不均一な分布が生じていることを示している。この原因として、スピン密度の分布が・電子系の電荷不均衡(電荷秩序)の発達に付随して現れる可能性が考えられる。一方、反強磁性状態(4.2K、7T)におけるNMRスペクトルは、非常に幅の広い連続的なスペクトルを示すことが見いだされた。このことはパイ電子の磁気秩序は、あたかも非整合SDWのように、モーメントの大きさがゼロから連続的に分布した極端に不均一な状態であることを示している。鉄の磁気モーメントと強く結合するシアノ軸中の炭素スペクトルはシャープな反強磁性分裂を示す。更にd電子系とパイ電子系では磁気転移温度も異なる。フタロシアニン環上の炭素サイトとシアノ基上の窒素サイトのNMRスペクトルの温度依存性の比較から、鉄d電子の反強磁性秩序は16Kから13Kの範囲で起こるのに対し、パイ電子系の磁気転移温度は11Kであることが分かった。同じ分子上にある強く相互作用している二つの電子系が、このように異なる秩序状態や転移温度を示すことは極めて異常であるが、まだそのメカニズムは明らかではない。
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