Research Abstract |
本申請課題では,蛍光部位(PPD, Fluo, Pyrene)と伝導部位(TTF)とを有する単分子型光誘起伝導性物質TTF誘導体(PPD-n, Fluo-n, Pyrene-n)の光誘起伝導性メカニズムを,パルス時間分解ESRを使用して電子スピンダイナミクスという観点からの解明をすることが目的である.前年度までに,高時間分解能を持ったTR-ESRシステムの開発,および孤立分子系における光励起状態の解明は完了している.本年度は,固体状態におけるCS状態の捕捉とそのスピンダイナミクスの解明をするため,PPD-nの粉末試料に対する時間分解ESR測定を行った.そして,10K,355nm励起の条件化で,PPD-n粉末試料でのTR-ESRスペクトルを観測することができた.このスペクトルは,(1)非常に狭いスペクトル全幅(~25G程度),(2)すべて負側(Emission側)に現れるシグナルという2つの大きな特徴を示していた.スペクトル全幅はゼロ磁場分裂相互作用定数D(∝r^<-3>,ここでrはスピン間距離を示す.)に依存するので,スピン間距離の長い,TTF部からPPD側への分子内電子移動の結果生成したCS状態に帰属できた.また,シグナルがすべてEmission側であることから,CS状態は,何らかの励起三重項(T_2)状態から生成されると予測できた.T_2状態の寿命は装置限界より短いと予想され直接観測にはいたっておらず,T_1状態と同じか否かを特定することも出来ない.以上の結果から,孤立分子系では,基底状態(S_0)状態から,光(532nm)によりS_1状態に励起される.その後,系間交差によりT_1状態を経てS_0状態へと緩和するが,固体系では,光(355nm)によりS_0からS_2状態へと励起され,その後,T_2状態を経てCS状態となり,再結合して失活するプロセスを経ることを明らかにした.
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