Research Abstract |
生体内ATPaseのエネルギー変換に対する水和の重要性が示すため,水溶液中のATP加水分解エネルギーを,ATP, ADP, P_iの水和・脱水和によるエネルギーと,リン酸エステル結合の分解によるエネルギーに分割する必要がある.本研究では,ATP加水分解過程を(1) ATPの水相から有機溶媒相への移動,(2) 有機溶媒相でのATP加水分解,(3) ADPとP_iの有機溶媒相から水相への移動の3つの過程から構成される系とみなし,それぞれの熱力学量を測定し,ATP加水分解における水和の重要性をエネルギー論的に示すことを目的としている.当該年度では,(1) ATPの水相から有機溶媒相への移動と(3) ADPとP_iの有機溶媒相から水相への移動に関して,ATP, ADP, P_iの有機溶媒/水分配係数の測定を実施した.その結果,ATP, ADP, P_iは,いずれも有機溶媒相よりも水相に分配される傾向が強く,水と強く相互作用していることが示唆された.さらに,ATPは,ADP, P_iに比べて,より有機相に移行しやすいことが分かった.有機溶媒相/水相の分配比は,有機相に脂肪酸アミンを添加すると逆転し,ATP, ADP, P_iのほとんどが有機相に移行するようになった.ATPがADP, P_iに比べて,より有機相に移行しやすい傾向は保たれていた.この有機相に電荷をもつ官能基(アミン)がある状態が,タンパク質内部と類似していると考えると,これは,ATPは結合しやすく,ADPとP_iは解離しやすいATPaseタンパク質の機能と良く類似した現象であり,興味深い.また,この実験系は,ATP等を高濃度に有機相に溶かすことができるので,(2)に挙げている有機相でのATP加水分解を測定する上で大変有用であると考えられる.
|