Research Abstract |
顔認知の知覚的側面の異常として,局所脳損傷患者における,顔の知覚に障害をきたし相貌の認知に失敗する相貌失認の神経心理学的研究や,情動的表情の認知の障害関する研究がある.しかし、相貌の知覚や、表情の認知はヒトの顔認知を構成する要素の一部に過ぎない.そこでこの研究ではこれら以外の顔認知のエラー,すなわち1)顔の意味記憶障害,2)顔の幻視,3)顔の錯視,4)顔の誤認を介して,顔認知に関する神経基盤を探る.本年度は,上記の3),4)に焦点を当て,そのモデルとしてパーキンソン病(PD)およびレビー小体型認知症(DLB)におけるパレイドリアの出現頻度をアルツハイマー病および健常高齢者を対照にして検討した.DLBは幻視、注意の変動、パーキンソニズムを主徴とする認知症性疾患である.特に人物や動物などの繰り返す複雑な幻視は特徴的である.またPDでは経過とともに高頻度に幻視が出現する.患者の日常生活場面における幻視,錯視を臨床場面で再現する目的で錯視誘発課題(パレイドリア課題)を作成した.12個の刺激を用いて,誘発された錯視の総数,および錯視を誘発した刺激数を指標とした.12個の刺激に対して,健常高齢者では全く錯視は誘発されなかったが,DLBでは誘発錯視数および錯視誘発刺激率(平均±SD)は(9.4±3.7個;54.4±18.5%),PDでは(3.1±2.6個,18.7±15.2%),ADでは(1.1±1.0個,14.4±9.2%)であり,いずれでも錯視内容は,動物,人物,物体の順であり,動物,人物の錯視の約半数が「動物の顔」,「人物の顔」であった.以上の結果から,PDにおいてはDLBほどではないが,ADと比較すると高頻度であり,DLBとの共通性が示唆された.さらに顔の錯視が高頻度であることから錯視における顔の重要性,あるいは一般的に顔認知の特殊性が示唆された.
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