Research Abstract |
本研究の目的は,顔の記憶における前頭前野の役割を統合的に解明することである。そのなかで本年度は,1.脳活動計測の準備のための行動実験,2.発達障害を持つ子どもの研究のための予備調査,の2点を中心に研究を進めた。 1の実験では,大学生および大学院生を参加者として顔の再認課題を実施し,行動レベルの結果を解析した。課題には大きく2つの条件があり,一方では職業や出身地などの社会的情報とともに顔刺激を提示し,もう一方では無意味な記号とともに顔を提示した。その結果,正答率の分散が条件間で有意に異なっており,情報がない場合に結果のばらつきが大きかった。この結果は,社会的情報が無い場合には,記憶に用いる方略に個人差が大きいという事実に起因するものと考えられる。反対に,社会的情報が与えられた場合には,その情報と顔を結びつけることによって顔を記憶するという戦略を採用する参加者が多かったと考えられる。したがって,この課題を用いて脳活動計測を行うことにより,社会的情報としての顔の記憶が,脳内でどのように処理されているかという問題に迫ることができると結論付けた。 2の子どもを対象にした研究では,ADHDまたはPDDの少なくともどちらか一方の診断を受けた小学校児童を対象に,周辺情報が提示されないシンプルな顔再認課題を実施した。これまでに6名の子どもからデータを取得し解析したところ,顔再認課題の成績とIQ値とは必ずしも相関せず,顔の記憶に特異的に秀でた子どもが複数存在していた。今後,実験パラメータを固定したうえで,参加者数を増やして詳細に検討することで,一部の発達障害において社会適応に困難が生じるメカニズムの理解,ひいては支援などに結び付けられるものと期待される。
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