Research Abstract |
13億人を超える人口を擁し,産業経済が急速に発展する中国は,エネルギー消費量も急増し,今や世界一の石炭消費国になった。その一方で,大量の石炭消費に伴う排煙による都市の大気環境問題が深刻化している。化石燃料の不完全燃料に伴って発生する代表的な有害化学物質の一つに多環芳香族炭化水素(PAH)及びそのニトロ誘導体(NPAH)がある。これらは強い発がん性/変異原性/内分泌かく乱性を有するので,ヒトの健康,とりわけ大気汚染濃度が著しく高い中国国民の健康に及ぼす影響が懸念されている。また,中国で大量に大気中に放出されたPAH, NPAHは,黄砂や硫黄酸化物等と同様に日本海を越え,わが国まで長距離輸送されてくることが推定された。昨年度は,中国東北地方の代表的都市である瀋陽市について,季節毎に2週間ずつ大気粉塵を捕集し,含まれるPAH, NPAHをそれぞれHPLC-蛍光検出法,HPLC-化学発光検出法で測定し,過去の測定結果を併せて汚染濃度と主要発生源の推移を解析した。本年度は,冬季偏西風の風下に位置する能登半島先端に在る金沢大学輪島大気観測ステーションで大気粉塵を通年連続捕集し,含まれるPAH, NPAHを同様の方法で分析した。気象条件と合わせて解析した結果,瀋陽市の大気中PAH, NPAH濃度は金沢市及び能登半島における濃度よりはるかに高いこと,瀋陽市を含む中国東北地方の主要発生源が冬季は石炭燃焼システムであり,夏季は自動車と石炭燃焼システムの両方であること,さらに後方流跡線解析法を用いて,冬季に中国東北地方で発生した高濃度PAH, NPAHがわが国の能登半島まで長距離輸送されていることを初めて証明した。
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