2021 Fiscal Year Annual Research Report
都市化過程におけるメソポタミア外縁部の考古学的研究
Publicly Offered Research
Project Area | The Essence of Urban Civilization: An Interdisciplinary Study of the Origin and Transformation of Ancient West Asian Cities |
Project/Area Number |
21H00003
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小高 敬寛 金沢大学, GS教育系, 准教授 (70350379)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メソポタミア / 肥沃な三日月地帯 / 都市化 / 遺跡調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、都市化の過程における「肥沃な三日月地帯」とメソポタミア低地の結節点での文化動態を考古学的に探ることを目的とする。そのための手段として、イラク・クルディスタン自治区スレイマニヤ県シャフリゾール平原において、先史遺跡の調査を実施した。 まず、スレーマニ文化財局に保管されていたシャカル・テペ遺跡の出土資料の調査・研究を行なった。具体的には、都市化の時代にあたる銅石器時代の土器資料を主な対象として、実測や写真撮影などのドキュメンテーションを行なうとともに、型式学的な属性分析を中心に物質文化の内容把握に努めた。 その結果、シャカル・テペ遺跡の出土資料には、ウバイド後期(紀元前5千年紀半ば)および後期銅石器時代4~5期(紀元前4千年紀後葉)の2時期に比定できる土器アセンブリッジが含まれていることが判明した。それらには、いち早く都市化が進展する南方メソポタミア低地の影響が明瞭にみられるが、北東方イラン高原との関係性を窺わせる土器型式なども存在し、多方面との文化的つながりが確認できた。長距離流通網の発展とともに拠点的な集落、ひいては都市が形成される過程のなかで、シャカル・テペ遺跡が集落(遺跡)や地域どうしの経済的・有機的な結節点として機能していたことが強く示唆される。 また、新たにシャイフ・マリフ遺跡Ⅱ号丘の発掘調査を実施し、都市化の時代に帰される考古資料の検出を試みたが、残念ながら、該当するような資料の発見には至らなかった。しかし、同時に行なったシャカル・テペ遺跡~シャイフ・マリフ遺跡間の地形計測の成果と合わせて、シャフリゾール平原における時代別遺跡分布を理解するうえでは有益な情報を得ることができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はコロナ禍の影響が下火になり、現地での遺跡調査を再開することができた。シャカル・テペ遺跡出土資料の調査により、都市化の時代における同遺跡の物質文化について把握が進んだとともに、それを編年的にも位置づけることができた。また、新たにシャイフ・マリフ遺跡Ⅱ号丘の発掘調査を実施し、一遺跡だけに着目するのではなく、シャフリゾール平原を広く対象とする研究へと展開させることができた。所期の計画であったシャカル・テペ遺跡の発掘調査は諸事情によって滞ってしまったが、代替ともいうべき遺跡の発掘調査を実施できた点、また地形計測の成果からより発展的な展望が築けたという点は、研究の進展にとっては補って余りあるものと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2023年度は、引き続きシャフリゾール平原での遺跡調査を実施する。具体的な標的として予定するのは、地形計測を実施済みの地理的範囲に含まれるシャイフ・マリフ遺跡Ⅰ号丘である。現地のイラク・クルディスタン地域政府スレーマニ文化財局と連携をとりつつ、研究協力者とともにこの遺跡の発掘調査を実施する。そして、出土資料の実測や写真撮影などのドキュメンテーションを行なうとともに、型式学的な属性分析を軸として物質文化の内容把握に努める。 これらの調査結果とこれまでの調査成果を相互に照らし合わせ、都市化過程における物質文化の編年の実証的な構築を試みる。また、物質文化にみられる固有の地域性と他地域からの影響を通時的に評価する。そこで捉えられた地域間関係の変化に基づき、都市形成の基盤となった広域物流網、およびその背景にある社会経済システムの生成過程を考察し、更なる比較文明史研究への展望を拓く。
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