2021 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of electron-proton correlation characteristics in the self-assembled bilayer
Publicly Offered Research
Project Area | HYDROGENOMICS: Creation of Innovative Materials, Devices, and Reaction Processes using Higher-Order Hydrogen Functions |
Project/Area Number |
21H00024
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 浩之 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (80300862)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電子-プロトン相関物性 / 水素結合 / 導電性分子 / 表面分光 / 走査トンネル顕微/分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、プロトン・ドナー分子膜/アクセプター分子膜からなる異種二分子膜を自己組織化的に製膜する技術を確立し、外部電場によるプロトン移動の誘起および導電性制御の実証に挑戦するものである。分子間のプロトン移動は、プロトン・ドナー分子/アクセプター分子の双方の電子状態に大きな変化を与える。特に導電性分子では、プロトン移動が分子の導電性の変化に直結するため“電子-プロトン相関系”となることが期待される。そこで本研究課題では、独自に製膜した異種二分子膜を用いて、プロトン移動に伴う導電性制御の実証と、内在する物理化学の解明を目標とする。 2021年度は、新学術領域研究 応募班第2期の初年度である。第1期では、良好な異種二分子膜の製膜条件を確立するとともに、導電特性を計測する装置の整備を進めた。2021年度は、本題である「プロトン移動の誘起と導電性制御」の実証実験を中心に研究を進めた。実験では、主に走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた。STMでは、定電流モードを用いることで、分子に流れる電流を抑制しつつ、電場の印加と導電性変化の観測を行うことができる。準備した異種二分子膜は、原子間力顕微鏡(AFM)によって、原子レベルで平坦であることは既に確認していた。今回、STMの定電流モードによる観測でも、二分子膜が平坦であることが確認された。STMは原理的に導電性をマッピングする計測手法である。よって、二分子膜のSTM像が平坦であることは、導電特性においても均一であることを示している。そして、局所的に試料バイアスを変化させてプロトン移動を促したところ、STM像の変化を確認した。しかも、その変化から状態は2種類であり、高導電状態と低導電状態と帰属できること、それらを可逆的に作り出せることが確認された。これは、プロトン移動に伴う導電特性の制御を示していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、「プロトン移動の誘起と導電性制御」の実証実験を中心に研究を進めた。独自に製作した二分子膜は、プロトン・アクセプターとなるイミダゾールで終端したアルカンチオラート単分子膜(Im-SAM)を第1層目として、プロトン・ドナーとなるCat-TTF誘導体(Cat-BPT-TTF)を第2層目とする二分子膜である。先の原子間力顕微鏡(AFM)を用いた測定から、この二分子膜は、原子レベルで平坦であることを確認していた。今回、STMの定電流モードによる観測でも、二分子膜が平坦であることが確認された。STMは原理的に導電性をマッピングする計測手法であるため、二分子膜のSTM像が平坦であることは、導電特性においても均一であることを示している。 次に、試料バイアスを変化させ、導電性制御の可否を評価した。試料バイアスを負方向に変化させ局所的に走査したところ、走査領域の分子膜が高く観測されるようになり、十分な負バイアスでは観測される分子の高さは一定の値となって飽和することを観測した。このことは、分子膜が低導電状態から高導電状態となったことを示していると考えられる。一方、この高導電領域に試料バイアスを正方向に変化させて走査したところ分子高さは低くなり、十分な正バイアスでは元の高さに戻ることが確認された。よって、低導電状態へ戻ったと考えられる。くわえて、この変化は可逆的に繰り返すことも確認できた。プロトンは正電荷を帯びているので、二分子膜試料の中で、試料バイアスを負にすると第1層目へプロトン移動を促す電場であり、逆バイアスでプロトンは元の第2層目に戻る移動が誘起されると考えられる。すなわち、設計通りの「プロトン移動に伴う導電特性の変化」を捉えたものと考えられる。現在も、各種のパラメータを変化させてなど定量的な測定を続け、プロトン移動の起こり易さや移動後の安定度に関する解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、新学術研究領域の最終年度である。まずは、2021年度に観測した「プロトン移動に伴う導電特性の変化」をまとめ発表することに注力したい。これには、理論計算の支援が不可欠であり、連携研究者と議論を重ねて「プロトン移動と移動後の安定状態」について、可能な限り信憑性の高い議論ができるように努めたい。 さらに、異種二分子膜の構成について改良を加えることを予定している。プロトン・ドナー分子/アクセプター分子の対を替えて導電特性の変化を明らかにすることは、電子-プロトン相関物性の物理化学を検討する上で極めて有用である。現在はプロトン・ドナーであるCat-TTF誘導体を第2層目としているが、第1層目のプロトン・アクセプターを変化させたときの二分子膜形状への影響が大きいことが懸念される。そこで、試薬合成で協力いただいている連携研究室と議論し、Cat-TTF誘導体を第1層目のSAMとして導入する計画を進めている。これが可能になれば、多数のドナー/アクセプター対を系統立てて置換した実験が可能になり、より多くの情報を得られると期待される。 くわえて、SAM側にCat-TTFを固定することが可能になれば、プロトン移動に関する評価を溶液中で電気化学的に評価できる可能性が出てくる。これを想定して、2021年度から溶液に接する試料の状態評価ができる可視-紫外線領域の差分反射分光(DRS)装置の準備を進めている。2022年度中に完成させ、二分子膜の評価に活用する予定である。これらの研究をとおして、「プロトン移動に伴う導電性制御に内在する物理化学を解き明かし、新たな分子デバイスの指導原理の構築を目指す。
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